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2021.09.04 12:00

会津の気候風土を酒で味わう 「土産土法」とテロワール


高橋庄作酒造店ではまず、会津にとって「適地適作」の酒造好適米を探るために数品種を栽培。「最も良い品質、安定的に収穫できるのは五百万石」と確信した。

しかし、蔵人たちが五百万石だけを使い続けていては、五百万石の良さや限界は分からない。そこで、あえて五百万石と特性の違う岡山県の「雄町」や広島県の「八反錦」といった他県の酒造好適米を使うことで、五百万石を深掘りしていった。

一方で、かつて研修先の酒蔵で使った山田錦の良さも忘れられなかった。

「蔵の子(蔵人)たちにも体感してもらいたいけど、山田錦ならば何でもいいわけではない。山田錦の王道を知って山田錦に対する物差しを持ってもらうためにも、初めて触れてもらう山田錦は最高峰のものを使いたい」

そう考えていたとき、兵庫県特A地区の山田錦を使う機会に恵まれ、2009年から兵庫県産山田錦の酒造りも始めた。現在では高橋庄作酒造店の原料米は、8割が会津産で、うち3割弱が自社栽培。残りの2割は、兵庫県産「山田錦」「渡船」「山田穂」、岡山県産「雄町」の4品種を使っている。

会津の五百万石を知るために使い始めた山田錦。この出会いが「穣」へとつながっていった。

1枚の田んぼから仕込む純米酒


山田錦の栽培で知られる兵庫県の特A地区には、旧東条町(現在の加東市)と旧吉川(よかわ)町(現在の三木市吉川町)がある。「どちらもきれいで遜色ないお米」(高橋)だが、それぞれの米で酒を造り始めてから3年目にあることに気づいた。

「お酒は同じ造りで、ほぼ同じ経過をとって、ほぼ同じ商品にしていきますが、東条の山田錦で造ったお酒は毎年こういう雰囲気、吉川のお酒はこういう雰囲気というふうに、それぞれに“色”があるのです」

高橋は考えた。自社で栽培している田んぼは、土壌の性質が大きく3つに分類でき、水持ちや肥料持ちなどが違う。さらに、同じ分類の土壌であっても田んぼごとに稲姿が違う。土壌や稲姿が違うのだから、田んぼごとの味わいの差が出せるのではないか──。


「羽黒前27」の田んぼで土壌の性質を説明をする高橋(2021年7月)

当時は東日本大震災直後。福島第一原発事故による風評被害で、「福島県産のお酒の存在意義が問われていた」(高橋)。そのタイミングで気づいた田んぼごとのテロワール。「今まで以上に胸を張って『会津産』と言える仕事がしたい。地元のお米を掘り下げていきたい」。そう感じていた高橋に取り組まない理由はなかった。

田んぼの特徴を出すために、高橋はまず1枚の田んぼの米で仕込んだ酒の再現性が重要だと考えた。栽培や仕込みや設備の課題をクリアしながら毎年酒を仕込み、3年目に千葉県の酒販店の頒布会で圃場限定純米吟醸酒「穣」の「羽黒64」を商品化した。再現性の手ごたえを感じると、さらに3年後の2019年から自社のそれぞれの田んぼごとの味わいを表現する「穣」を本格的に展開。現在は7枚の田んぼの米で7種の「穣」を造っている。

田んぼと酒の味わいの相関を探る


本格展開までに6年の歳月がかかったのは、「穣」の実現には高い技術が必要とされたからだ。

「田んぼごとの雰囲気を知るためには、田んぼごとの差を出すのではなく、さまざまなファクターをいかに一定にして余分なものを削れるか。とにかくシンプルにすることで、そのベースの微妙な差が出せるのではないかと考えました」

「さまざまなファクター」の中からどの部分を一定にするかを考え、精米歩合と酵母を統一した他、日本酒度、酸度、アミノ酸度、アルコール度数の数値をできる限りそろえるため、改良や工夫を重ねて作業の日数やタイミングや温度などを一定にしていった。


ブクブクと発酵する仕込み中の酒(2019年2月)

「穣」を本格展開した2019年からは、福島大学食農学類との共同研究も始めた。それぞれの「穣」の違いはどこから来るのかを探るために、まずは、金子信博教授が田んぼからのアプローチとして土壌の成分を調査。その後、3カ年かけて藤井 力教授が酒からのアプローチとして「穣」の成分調査を行っている。土の違いが米にどう影響しているのか、米の違いが「穣」にどう影響しているのかを調べ、田んぼと「穣」の相関関係を導いていくというわけだ。

それぞれの田んぼの味わいを表現した圃場限定酒は、高橋庄作酒造店という蔵の在り方をも表現したシンボル酒でもある。会津の「穣(みのり)」を醸しながら、土を掘り下げ、米を掘り下げ、高橋庄作酒造店の「土産土法」は深化を続けている。

【連載】お米ライターが探る世界と日本のコメ事情
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文=柏木智帆

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