無観客シーズン継続を 「新体感」観戦ソリューションで乗り切れ


大きな足かせとなっていたのが経営面。無観客で実施しなければならない各球団オーナーの懐事情と、試合数激減のため年俸削減を飲まなければならない選手会との間で激しい綱引きが行われ、1994年のストによる「ワールドシリーズ未開催」の二の舞となりかねない事態をなんとか回避した形だ。それでも行われるのは例年の162試合と比べると、わずか60試合。「ナショナル・パスタイム」を死守したに過ぎない。無観客による興行収入ゼロのインパクトはそれだけ大きい。

Zoomで野球観戦。オンライン・ファンミーティングも


以前の記事でも唱えているように、無観客試合を補完する収入源を創出する必要がある。ソフトバンクやDeNAのようなIT関連企業に期待していたが、それは開幕時から実行に移された。

横浜DeNAベイスターズは、今季開幕戦にてオンライン会議ツール「Zoom」を活用。このツールで試合観戦を呼びかけ、希望者の一部は応援中の姿をスタジアムの大スクリーンに映し出した。ニュース番組では、この模様はチラリとしか映し出されなかったと記憶しているが、無観客ながらこのチケットを1000円でセールスした。

試合中継などでも映し出された観覧席への応援パネル掲出権、さらに「オンライン・ファンミーティング」に参加できる権利なども販売しており、開幕からDeNAらしい創意工夫が観られた点には感心した。

NTTドコモはDeNAのこうした機動力に着目し、同じくDeNAが経営するBリーグの川崎ブレイブサンダースへの出資を決定したニュースは記憶に新しい。

東北楽天イーグルスは、同社の動画配信サービスやLIVE配信サービスを通じ、普段のシーズンでは見ることのできないベンチ内の映像を含めチアガールやマスコットとの交流の模様など、ちょっとした舞台裏をオンライン中継。定額制音楽配信サービスでは、選手登場曲や選手が選曲した音楽のプレイリストなども配信。こうした試みは新型コロナ禍のみならず、通常のシーズンでもぜひ継続してもらいたい。

360度から捉えた映像を展開する「4DReplay」


福岡ソフトバンクホークスはさらにピンチをチャンスに変える発想からか、新しいソリューション導入に踏み切った。今シーズンからPayPayドームに「4DReplay」を装備。これまでと異なる視点から野球中継を届ける。

4DReplay」とはタイムスライス方式技術により、360度自由視点映像を生成、そのさまざまなカメラアングルから映像を提供するソリューション。昨今、自由視点映像を提供する技術はそう珍しくはないが、4DReplayは撮影した映像をわずか5秒未満というごく短い映像処理時間で再生可能であり、スポーツなどのLIVE中継で高品質な自由視点映像を配信することができる。

4DReplay社は韓国のスタートアップ企業。現在はKDDIからも出資を受け、サンフランシスコに本社を置く。創業者は映画『Matrix』の撮影技術に着想を得たというエピソードからもわかる通り、簡単に説明すると同作で活用された360度回転する自由視点映像をたった5秒で再生するソリューションだ。
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文=松永裕司

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