ライフスタイル

2020.06.27 18:00

「ブラック」という多様性。共生が当たり前の米社会でステレオタイプを疑う


夫も兄弟たちもアメリカでは普通の会社員だが、そんな黒人の姿をイメージできる人は、残念ながらあまり多くない。そもそもアメリカから入る情報は、政治・経済・ハリウッドと、広大なアメリカのほんの一部分でしかなく、その限られたビジュアルで培われてきたステレオタイプにより、黒人たちはとんだ誤解をされている。

例えば、黒人はエンターテイナーかスポーツ選手か、または貧困層でギャングみたいで怖い人というように、白人目線で作られた黒人イメージが、そのまま日本に限らずアメリカの外ではステレオタイプとして根付いてしまっている。アメリカで出会った日本人の中にも、自分が白人とでもいうように偏見に満ちた言動をする人が何人もいた。残念だがNHKが流した黒人のアニメーションが的確にステレオタイプを表していた。

そういう私自身も、大学で黒人の友達ができた時初めて、自分の潜在意識の中のステレオタイプに気づかされ、それがどれだけ間違っているかを反省させられた。

ステレオタイプは恐ろしい。ジョージ・フロイド氏が警察に殺される少し前、ニューヨークのセントラルパークでは、バードウォッチングをしていた黒人男性が、犬にリードをつけずに散歩している白人女性に「公園の決まりですから綱をしてください」と言ったところ、女性はとっさに警察に電話をし「黒人男性が私を脅迫している」と通報した。このビデオもSNSで拡散され、彼女は仕事と犬まで失った。

ちょっと厳しすぎるのではないかと思うかもしれないが、もしあの状況を立証できるものがなければ、この黒人男性の命が危なかったかもしれないのだ。黒人にとってバードウォッチングすら自由にできない社会を象徴した事件であり、ステレオタイプが人の命まで危険にさらすという事例だ。

「黒人」であるという大切なアイデンティティー


夫の兄弟の中には、白人として生きることもしようと思えばできた人もいる。みんな自分は黒人だと言う背景には、「1滴でも黒人の血が入っていれば黒人」という定義の影響が強いのは事実だが、それをマイナスとは捉えてはいないところが興味深い。多様な背景が普通に家庭内に存在し、肌の色が素晴らしく多様な黒人家庭にとって、「黒人」というのは家族の大切なアイデンティティーであり、まとめ役なのだ。

Black Lives Matterを掲げる群衆の中の多くの白人たちに、どれだけ多様なバックグラウンドを持つ人がいるだろうか。最近気軽にできるDNA鑑定により、白人だと思い込んで生きてきた人の中にも、黒人や他の有色人種の血が流れていることを知った人も多い。Black Lives Matterという言葉が他人事ではないことに、DNAによって気づいた人も多いだろう。

Black Lives Matterムーブメントとデモが要求するものは、黒人が監視されず普通に安全に暮らす権利だ。結婚によりチョップドサラダの一部になった私は、黒人の血を引く我が子にその当たり前の権利が保障されること、また自分の多様性を誇りに思い、他者を尊重する人になってほしいと心から願っている。

新連載:社会的マイノリティの眼差し
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文=大藪順子

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