マッキンゼーはなぜ「サンクスレター」に命をかけていたのか?

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心に余裕がなくなると、つい自分のことで頭がいっぱいになり、未来までも漠然とした不安で覆われてしまうことがあります。すると誰かから何かをしてもらっても、つい「ありがとう」ではなく「すみません」と頭を下げてしまう。

やがてその「すみません」の習慣が、「自分が悪いです」という潜在的な防御の壁や、思考停止を生み、気がつけば自分をすり減らしてしまう。つまり、「すみません」には悪循環を生む潜在力があります。

では逆に、未来に向けて健やかな希望やわくわくを感じられる自分をセットするには、どうしたらいいでしょうか? 僕の答えはシンプルです。「すみません」といいそうになったら、とにかく「ちがった! ありがとう!」というように、まず習慣から変えていくことです。

例えば、セミナーでなにか質問して返答が返ってきたとき、まず「ありがとうございます」と言ってみる。すると自然と、「自分にとって、相手のお話のなにが有り難かったのか、何がためになったのか」を言語化するようになります。同時に、あなたの感想は相手にとっても有益な情報になるので、「こちらこそありがとう、いいフィードバックをもらえました」となれば、お互いにとって価値のある交流になります。

僕がマッキンゼーにいたころは、先輩方から「サンクスレターに命をかけろ」と叩き込まれていました。いまはどうかわかりませんが、当時のマッキンゼーでは必ずアタッシュケースを持つ習慣がありました。

理由は2つ。1つは鍵をかけることでお客様の機密文書を守ること。もう一つは、固くて平らなケースを机代わりにして、帰りのタクシーで手紙を書くためです(当時はまだEメールが普及しきっていませんでした)。そしてすぐに投函し、翌日にはお客様へ肉筆のサンクスレターが届くようにするのです。

手紙には、お客さまからいただいたどんな話が参考になったか、自分にとってどう有り難かったかを細かく書き綴ります。その上で、またご縁をいただけたら、全力でお付き合いさせてください、とご挨拶するのです。

「ありがとう」が好循環を生む


当時、マッキンゼーがサンクスレターを重要視していた理由。それは、コンサルタントという職業が、自分の学習を生かしてお客様に情報やアイデアを提供することを前提としながら、その実、かなり多くの知識や知恵、知見を、お客様をはじめ、あらゆるご縁から“いただく”ことで成り立っているからだと思います。

「コンサルタントはあらゆる人から時間や知恵を“いただく”ことで仕事ができているのだから、いただきっぱなしにして、自分のところで循環を止めてはいけない」「自分に時間や知恵をくださる相手には、お礼の気持ちとして、“なにがためになったのか”というフィードバックを渡すことで、相手との好循環を回そう」という考えを、先輩方は持っていました。
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文=尾原和啓

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