なぜ、勝ち続ける企業はみな「二兎追い戦略」なのか[世界の権威に聞く「最新・企業経営論」]

イラスト=ベルンド・シッファカーデッカー

"安定重視とイノベーションの融合は難しい。だが、うまくいけば、長期的な成功が見込める"

「アウトライヤー企業は、『優位』から『優位』へと移動する」

ニューヨークのコロンビア大学ビジネススクールで戦略とイノベーションを教えるリタ・ギュンター・マグレイス教授は言う。

アウトライヤーとは、「異常値」といえるほど抜群の成長を長年にわたって続ける企業のことだ。

同教授は2013年、世界の最も偉大な経営思想家50人を2年ごとに選ぶ「TheThinkers50(シンカーズ50)」で6位に輝いた米国有数の経営学者である。英メディアが始めた同ランキングには、フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)など、そうそうたる顔ぶれが登場している。

「一時的競争優位」時代の到来

そのマグレイス教授がベストセラー『競争優位の終焉―市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける』のなかで説いているのが、持続的競争優位から「一時的競争優位」へと発想を変える必要性だ。

同教授によれば、IT革命やグローバリゼーションなどのために変化のスピードが加速度的に増している現代では、既存の競争優位は一瞬にして色あせてしまう。優位に安住し、硬直化したシステムの下で従来の長期的戦略を続け、危機の到来を看過していると、エリート企業もまたたく間に転落しかねない。

「企業を守っていた市場参入の障壁が崩れ、デジタル化で(優位だった製品が)いとも簡単に模倣される。もはや隠れる場所は、ほとんどない。競争がすぐ後ろから追いかけてくる」と、同教授は警鐘を鳴らす。業界外からも、予期せぬ競合相手・製品が現れる時代だ。同教授の予測では、今後、「一時的競争優位」の傾向はさらに強まる。

だが、発想の転換は容易ではない。同教授が世界の約4,800社を対象に成長率を調べた結果、2000~2009年の10年にわたって、毎年、純利益が5%増を記録した「アウトライヤー企業」は、ヤフージャパンや米IT大手コグニザント・テクノロジー・ソリューションズ、インドのIT大手インフォシス、中国の青島ビールなど10社のみだった。
次ページ > 企業が『成長の壁』にぶつかるのは不可避だ、という考えは合理的でない

文=肥田美佐子(ニューヨーク在住ジャーナリスト)/イラスト=ベルンド・シッファカーデッカー

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事