日本標準をはるかに上回る「ROE25%」を可能にする経営術 - 大東建託 代表取締役社長 熊切直美

多くの企業がROE(自己資本利益率)8%を目標にする中、ひと際目立つROE25%という数字。そして総還元性向80%(配当性向50%+自社株買い消却30%)も株主還元方針どおり実現。今期も7年連続の増収増益と最高益更新が見込まれる経営術とは。

――建設コストの高騰で同業他社が苦戦を強いられる中で、7期連続の増収増益、さらに最高益を更新される見通しですね。

熊切直美(以下、熊切):ここ1~2年はアベノミクス効果で確かに国内景気は回復したのかもしれませんが、建設業界は苦戦しています。円安による原材料の高騰、東日本大震災の復興需要と東京オリンピック開催決定で建築需要の急増による人件費の高騰など、工事原価が上昇する中で今年度と前年度を比較すると、利益率が3ポイント以上悪化しています。完成工事高が6,000億円ですと、粗利益率の3%というのは200億円。そのくらいの粗利益が吹っ飛んでしまう計算になります。

そんなこともあり、昨年よりも完成工事高は400億~500億円ほど増えているのですが、利益額は増えていません。実質的には連結で増収増益の最高益更新を達成できる予定です。連結での増収増益は、不動産事業や介護事業など、建設工事以外の利益の進展によるものです。

ここ10年の中で完成工事の利益率の状況は最低レベル。そんな中、お客様満足を高めつつ、どのように利益を上げて、株主の皆さんに還元をしていくのかを考えていかなくてはなりません。そのためにも、弊社最大の経営資源である社員のやりがいを高めることで、お客様満足、株主還元につなげたいと考えています。

創業以来の「持たざる経営」

――そんな厳しい経営環境の中でも約25%という高いROEを維持していますね。

熊切:4年前に、当時の発行済み株式の34%に当たる創業者の株式を自社株買いという形で買い取りました。それをすべて消却して、現状では当社の株主構成は56%が海外の機関投資家です。筆頭株主を含めイギリスの株主が約25%、アメリカの株主が約25%、残りの5~6%がアジアの株主です。私どもは国内でほとんどの商売をしていますが、資本構成的には「外資系」なのです。2014年度で40周年を迎えましたが、歴史的にみると後発企業です。「経営効率を高めていくにはどうしたらいいか」と創業者の時代から脈々と続いている結果が、現状のROE25%ということになっているのだと思います。

株主の皆さんにも、ROEについては最低限20%以上を公約しますと申し上げております。ですから、昨今、“日本企業はROE最低8%を目指せ”と言われていますが、私たちから見ると、その数字では株主の皆様には申し訳ないと思ってしまいます。

――なぜ、他社にはできない高いROEを実現できるのでしょう。

熊切:それは私たちが創業者の時代から志向してきた「持たざる経営」によるものでしょう。つまり、普通のハウスメーカーさんのように工場を持ってプレハブ化を進めれば、コストが下がり、施工品質は上がるというメリットがある。しかしそれは同時に、経営の幅を制限してしまう。順調に受注案件があれば工場の稼働率が高くなりますが、仮に受注が半減してしまったら工場の稼働率も半分になり、設備投資の減価償却負担だけが増えていくことになる。私たちはハウスメーカーではなく、建設会社であり不動産会社でもあることを考えて、自社での工場は持たない、不動産も持たない「持たざる経営」を進めているのです。

そのため、建設工事に関しては基礎工事から、大工、内装まで100%地元の協力業者さんに外注でお願いしています。我々の設備投資というのは人材なわけで、それが高い経営効率を生んでいるのです。
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文=鈴木裕也(フォーブス ジャパン)

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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