ビジネス

2015.04.02

賢くコスト削減のはずが…デルタ航空の「大失敗」




2007年の経営破綻から見事に再生し、いまや「アメリカの最優良航空会社」との呼び声も高いデルタ航空。ところが、燃油コストを節約するためにした「買い物」が、想像以上に高いものになってしまった。

 デルタ航空は2012年、製油所を買収するという異例のビジネス戦略に打ってでた。自ら製油所を運営する航空会社は他に例がない。
だが、リチャード・アンダーソンCEOを中心とする経営陣は、収益を圧迫している燃料費に対して革新的な取り組みが必要だと判断した。当時、原油価格は1バレル90ドル(約1万1,000円)台と高値で推移し、同社の1日当たりの燃料消費量は26万バレルで総費用の3分の1を占めていたからだ。

 デルタの経営陣は年間の燃料費120億ドルのうち、22億ドルが製油所の利益になっていると計算した。そこで、ジェット燃料を自前の製油所で生産すれば、燃油コストを節約できるのではないかと考えたのだ。そして、フィリップス66がペンシルベニア州フィラデルフィア近郊のトレイナー地区に保有する老朽化した製油所を、1億5,000万ドルで買収することに決めた。

 そして、2年半経ったいま―。「当時でさえバカげた決断に思えたものですが、いまではそれが明白です」と、ヒューストン大学でエネルギー経済学を教えるエド・ハースは言う。4億2,000万ドルも投資したトレイナー製油所は、約1億ドルの損失を出したのだ。

 では、少なくともジェット燃料のコスト削減につながったのか?
そうでもなさそうだ。製油所を買収する前も、デルタ航空は同業者より1ガロンあたり9セント安く仕入れていた。いまはどうか。相変わらず、9セント安いままだ。原油価格の下落にともなって、ジェット燃料の精製マージンも低下した。製油所買収の正当性は失われたと言えるだろう。

精油所ではなく、油田を買え!

 では、デルタ航空は、何をまちがえたのだろうか?

 じつは、何もかもだ。最大の過あやまちは、製油所を買収すれば燃料費の最善のヘッジになると考えたことだ。なぜなら、燃料費の最大の部分を占めるのは原油コストで、精製コストではないからだ。「パンの値上げが嫌だと言って、パン屋を経営するようなもので、思い違いもいいところです。本当にパンを安く買いたければ、小麦畑を買うしかありません」と、ハースは指摘する。さらに、「燃油コストをヘッジしたければ、いま売りに出ている油田を買うといい」と言う。ただ、トレイナー製油所の失敗を思えば、このアイデアはお勧めできない。

 いまになってみれば、デルタは原油価格の下落を待つだけでよかった。そして、先物市場で安値を付けた原油を確保していれば、収益を拡大することができたのだ。だが、選択を誤ったために、いまや多額の損失が経営に重くのしかかっている。それでもデルタは広報担当者を通じて、「世界のエネルギー市場の動向に一喜一憂することなく、ジェット燃料の価格変動リスクに対処するための包括的戦略の一環」と製油所買収の意義を強調し、引き続き運営に全力を傾ける意向を示した。

 日量18万5,000バレルもの精製能力を持ち、原油をガソリンやディーゼル油、ジェット燃料に精製するトレイナー製油所は当時、操業を休止していた。米石油大手コノコフィリップスは精製部門をフィリップス66として分社化する前から、同製油所の売却を決めていた。

 デルタは投資家たちに対して、ペンシルベニア州から3,000万ドルの補助金を得ていることや、再調達価額が27億ドルにもなることを挙げて、1億5,000万ドルが割安であると強調した。だが、これには環境対策で恒常的に発生する費用が含まれていない。また、デルタも具体的な額を明らかにしていない。

「泣きっ面に蜂」の空の優等生

 アメリカの最優良航空会社との呼び声が高いデルタ航空にしては、製油所買収はまれに見る誤算だった。CRTキャピタル・グループのアナリスト、マイケル・ダーチンは、同社を「航空会社ランキングではトップ」と評価する。

 経営破綻したデルタ航空は07年に再生を果たした。それ以降、バランスシートの負債比率の引き下げ、配当の引き上げ、自社株買いの実施、労働組合との積極的な対話、ヴァージン・アトランティック航空の株式49%取得に代表される賢明な判断など、さまざまな経営努力を重ねてきた。デルタの14年の純利益は20億ドルになる見込みで、株価は3年で4倍に上昇した。「製油所の買収だけは、どうしても首をかしげたくなる」とダーチンは言う。

(中略)

 さらに悪いことに、デルタは燃費ヘッジが裏目に出て、15年に15億ドル以上も燃料費削減のチャンスを逃すことになりそうだ。同社の先物トレーダーが14年に採用した手法は、燃料価格が下落した場合の利益を放棄して、高騰した場合の打撃を緩和できるようなオプション取引だったことが判明した。デルタの最高財務責任者(CFO)、ポール・ジェイコブソンによれば、デルタは原油安による下落分の3分の2ほどしか恩恵を受けられないという。同社の15年の燃料費は約20億ドルの減少が見込まれるが、燃料ヘッジをしなければ、35億ドルも削減できたはずだ。

 すべての航空会社が、これほど手間のかかる方法で燃料費を管理しているわけではない。例えば、アメリカン航空は燃料ヘッジや製油所で頭を悩ませる必要がない。デルタもそろそろ、考え直す時期がきているのかもしれない。少なくとも、製油所を買うのはもうこりごりなはずだ。

クリストファー・ヘルマン

この記事は 「Forbes JAPAN No.9 2015年4月号(2015/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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