ビジネス

2019.11.29

外の声を聞け。『キャズム』著者が語るデジタル時代の成功法

ジェフリー・ムーア


その他、今世紀に入ってからの典型的な例としては、GEに関する逸話があります。

ご存知のように、GEはハードウェア・ビジネスが主体の企業です。ソフトウェアに関しては、ほとんど認識や知識を持たないこの企業は、トランスフォーメーションを推進するにあたり、(前出の)インキュベーション・ゾーンで次のような3つの課題を持って研修を試みました。

1) 社内で学びながら、ソフトウェア推進を図る
2) ソフトウェアの要素を自社製品に取り入れ、効率的でより性能の良い商品づくりに役立てる
3) ソフトウェアベースのビジネスへの移行を推進する

その結果、1と2は社内でも受け入れられ、うまく稼働しましたが、3は完敗。これに関しては取り消さざるを得ませんでした。この社内での見解の推移はとても興味深いものだと思います。

私のようなコンサルタント業務に携わっている場合は特にですが、どのような分野であれ、「カスタマーを第一に考える」のはビジネスにおける鉄則だと思います。特に大企業で仕事をしていると、外部(カスタマー)との接触がなく、企画書立案から推進に至るまで、往々にして自分の成果や評価を中心に考えてしまいがちです。

しかし、一歩会社から離れ、実社会の動きを把握するには、自己中心的な「内側思考」ではなく外部に向かった「外交的思考」を持たなければなりません。

私はよく研修の中で「何か問題があった時にどうするか?」という質問を投げ掛けます。例えば、普段頼れるスプレッドシートは、有事の際は全く役立たないどころか、最悪のツールです。将来の展望や方向性を見極め、物事を推進する際には全く無能だからです。

──これから先の世界における「グローバリゼーション」の認識については、どのように考えるか。

10年前にこの質問をされていたら、きっと「グローバリゼーションは世界課題の一つだと思う」と答えていたと思います。

しかし、皆さんもご存知のように、現在は米中貿易戦争をはじめ、世界で起きている様々な要因から、10年前と同じような答えをすることはできません。むしろ、現在はローカルマーケットを重視する内向きな考え方を推奨する傾向もみられています。

いずれにしても、消費の力が世界の経済地図を変えるのは歴史が物語る事実です。世界での成功に言及するなら、19世紀は大英帝国、20世紀は米国、そして21世紀は、圧倒的な消費力を持つ中国が牽引する中で、各国・各地域とどのように接していくべきなのか──日本企業はこれから賢い舵取りをして行く必要があると思いますね。(後編に続く)


ジェフリー・ムーア◎キャズム理論の創始者として知られるマーケティングの世界的権威。「TCGアドバイザーズ」共同経営者。「モール・ダビドウ・ベンチャーズ」所属のベンチャー投資家でもある。『キャズム』(翔泳社)に続き、『トルネード』(小社刊)もベストセラーとなり、ハーバード大学、スタンフォード大学、MITなどで教科書に採用される。著書には他に『ライフサイクルイノベーション』『企業価値の断絶』(ともに翔泳社)、『ゴリラゲーム』(講談社)がある。

編集=谷本有香 翻訳=賀陽輝代

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