カニエ・ウェスト、奇想の系譜と10億ドル「スニーカー帝国」(前編)


ウェストの世界におけるiPodは『YeezyBoost(イージーブースト)350s』だ。そこらじゅうで目にする、底がずんぐりしたこのスニーカーには何十ものバリエーションがあり、Yeezyの売り上げの大部分を占める。

「俺は根っこのところでプロダクト好きなんだ」。ウェストは言う。「人に無上の喜びを感じさせ、人生の問題を解決させるプロダクトをつくる、そういうことをするのを俺は愛してるんだ」。

夢中になった音楽とデザイン


3年前に時間を巻き戻すと、ウェストは5300万ドルの借金があると宣言した直後、実入りのよいアリーナ・ツアーをキャンセルし、睡眠障害と一時的な精神障害でロサンゼルスの病院に入院した。ウェストはそこからの復活を信仰(いわく、「神への奉仕、完全な服従」)のおかげだと考えている。そして時には、躁うつ病のおかげだとも。

彼はクリエイティブで、カオティックだ。──単にクレイジーなのではなく。ADHDやアスペルガーの状態にある起業家たちと同じく、彼は自分の症状を障害物ではなく、イマジネーションを解き放つ「スーパーパワー」だと捉えている。

「『クレイジー』って言葉は、未来には、雑には使われなくなるだろう」と、ウェストは言う。「人は最終的にそういう状態になったり、生まれながらそうだったり、追い込まれてそうなったり、そうじゃなくなったりするものだ。それに、この『Cワード』で呼ばれながら、しまいにはフォーブスの表紙に載った人間だって山ほどいる」。

ウェストがデザインに夢中になったのは、音楽に情熱を持ったのと同じくらい過去にまでさかのぼる。アトランタ生まれ、シカゴ育ちのウェストは、中学生のときには、授業中にスニーカーのスケッチをしてよく怒られていた。

ウェストは大学教授の母親に連れられ、日本のサイバーパンク映画『AKIRA』を観に行き、映画内の形や色調にインスピレーションを得た。そのほかには、元ブラックパンサー党員の父親に連れられて自動車ショーに行き、ランボルギーニ・カウンタックに夢中になったことも覚えている。

「俺がするすべてのことに、ランボルギーニがちょっとずつ入っている」。ウェストは言う。「Yeezyは、靴のランボルギーニだ」。

細かさは、ウェストの音楽キャリアにも役立っている。キャリアが軌道に乗ったのは大学を中退してから、ジェイ・Zのロッカフェラ・レコードでプロデューサーとして人気を得たときだ。ジェイ・Zの2001年の画期的な名アルバム『The Blueprint』の音楽面のプロデュースに関わった。

2年半後にソロアーティストとしてデビューしたとき、ウェストはジャンルを捻じ曲げるようなものをデザインした。マーヴィン・ゲイとダフト・パンクのサンプリング音源をちりばめた初期作品だ。ウェストはコールドプレイとレコーディングし、U2とツアーを行った。

当時支配的だったラッパーたちが騒ぎ立てる物質主義とは対象的に、ウェストはより傷つきやすい主人公を提示し、アルバム3作でより知的なテーマを扱った。麻薬売買や路上の喧嘩に代わって、歯科手術や人種差別やGAPでの仕事をめぐる考察が表れた。ウィッティで自信たっぷりな調子で強調されて。
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文=ザック・オマリー・グリーンバーグ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=有好宏文 構成=岩坪文子

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