ビジネス

2019.11.07

北欧のイノベーションの震源地で見た、「偶然」を生む必然の仕掛け

ストックホルムのコワーキングスペース「Epicenter」。コミュニケーションの場となっている1F共有部


Ahlvarsson氏はEpicenterについて、「イノベーションを生み出す最先端施設として、企業の技術とビジネスチャンスを成長させるための設備が整っています。たとえば24時間使用可能なワークスペースや技術の開発やテストを行うことのできるラボなどがあり、会員企業はそれぞれの戦略に基づき、最適な環境を活用できます」と説明する。


ワークスペースやラボの一部

コワーキングスペースとしての基本的な機能は十分ということだ。では、Epicenterならではの特徴はどこにあるのだろうか。

大きな特徴のひとつが、会員になるために厳格な審査があることだろう。誰(どの企業)でも入居できるわけでなく、事業計画がすでに策定されており、着実に事業を推進する力が備わった企業にのみに会員資格が与えられる。

「0から1を生み出すスタートアップ企業ではなく、1を100、1000に拡大していけるスケールアップ企業を厳選しています。新たな会員が入ることでエコシステム内のシナジーをより強化していく必要がありますし、Epicenter自体を成長させるという点も欠かせませんから」とAhlvarsson氏。

このコワーキングスペースに新たな企業が参加する際には、その企業がメリットを得るというだけではなく、既存メンバーとコミュニティ全体のメリットにつながらなければならない。その視点が、成長を育むコミュニティづくりに重要だというのだ。

そうして集ったメンバーが出会い、お互いを触発する仕掛けづくりにも注力している。

「Epicenterは、幅広い知見やネットワークを持ち合わせた有識者“スーパーコネクター”にも会員資格を与えていることも特徴です。彼らは会員の特長や関心を把握してマッチングしたり、ソーシャル・グルと呼ばれる社会的な影響力の高い外部関係者を巻き込んだりする仲介人。彼らの活動によって、コミュニティがより豊かに育まれていくわけです」



会員になるにはハードルがあるが、オープンに参加を募るイベントも積極的に開催しており、会員・市民・行政・有識者や政治家といった異なるプレイヤーがボーダーレスに交わる機会も多いという。

「もちろん交わるだけでイノベーションは生まれません。私たちはスカンジナビア・エンスキルダ銀行などの大手金融機関と提携し、資金面のサポートを図ることでアイデアを具体化できる環境も整えています」

こうした仕掛けにより、たとえば、暗号資産を手がけるSafello社のサービスが、Epicenter会員企業のウェブサイトやアプリケーションに導入されたり、電力回路・電力機器のエネルギーのスマート化を図るBLIXT社が、会員企業に技術提供をしたりという取り組みが進められている。
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文=山田 聰

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