テクノロジー

2019.06.22 13:00

ルーツは「孤独」 分身ロボット開発に人生をかける理由

左からオリィ研究所の吉藤健太朗、結城明姫

Forbes JAPAN 6月号では、“100年「情熱的に働き、学び続ける」時代”と題した特集を掲載。そのなかで、気鋭の変革者たちがどう学び、働き、人間関係を築きながら進化を繰り返しているのかを探った。そこで露わになったのは、ユーザーと共に自分を磨き、未来を拓く姿だった。


2018年11月、東京・赤坂に「分身ロボットカフェ」が期間限定でオープンした。店員は身長120cmのロボット「OriHime-D」。ALS患者など外出が困難な人たちが遠隔操作で接客する。新しい働き方である“アバターワーク”の象徴的存在として、20年をめどに常設店の開業を目指すという。

人だかりの中に、「黒い白衣」をまとった男がいた。吉藤健太朗。「孤独の解消」をミッションに掲げ、分身ロボットの開発に人生をかける若きクリエーターとして注目を集めている。昼間はオリィ研究所を運営し、夜は新たなアイデアを形に落とし込む。「知識や技術が身につくのを待たず、短期間で一気に仕上げる」と言い、自宅には3日に1回しか帰らない。

しかし、彼はもちろん最初から「天才」だったわけではない。吉藤が分身ロボットの開発を始めたのは09年のこと。背景には小学校5年生からの3年半、不登校になったという原体験がある。「この世に居場所がないなと、すごく感じていましたね」。

そんな吉藤をこの世につなぎとめたのが折り紙だった。ある日、保健室の先生に折り紙を折ったところ、「すごい!」と喜ばれた。「リアクションがあることが嬉しかった」。ものづくりこそ、吉藤の「承認欲求を満たす手段」となったのだ。

それは幸運な出会いをもたらす。

中学1年のとき、母親が申し込んだロボットコンテストで優勝。1年後、大阪で開かれたロボフェスタで「奈良のエジソン」こと久保田憲司に出会った。その場で弟子入りを決めて猛勉強し、無事、久保田が勤める奈良県立王寺工業高校に進学した。

高校では久保田の指導の下、水平制御機構が付いた車椅子の開発に没頭した。終電で帰り、朝6時半の電車で通学する日々。こうして生まれた車椅子は、高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞した。その後、アメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)ではグランドアワード3位という快挙を成し遂げた。

そんな矢先、ISEFで出会った海外の学生の「俺の研究は人生そのもの」との言葉に衝撃を受ける。

車椅子に人生をかけるつもりはない。では、本当にやりたいことは何か。

高齢者などの話を聞く中で気づいたのが、孤独で苦しむ人が多いという事実だった。自身も不登校時代に孤独の苦しみを味わっている。ルーツは「孤独」にある。この再発見が、「30歳までに、孤独を解消するものを残す」という人生の目的になった。
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文=瀬戸久美子 写真=武 耕平

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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