ビジネス

2019.03.15 06:00

「小さな大企業」に選ばれた日本の3社 無名ゆえの戦略とは

「インダストリア」の職人

プロダクトだけが優れていても世界へは羽ばたけない。鍵となるのは「関係性の転換」だ。今回のスモール・ジャイアンツ アワードに選出された3社を例にその戦略を解説する。


東京・谷中にある高山医療機械製作所(高山医療)。いわゆる“下町の町工場”で作っているのは、スタンフォード大学やUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)など、世界屈指のカリスマ脳神経外科医に選ばれる手術器具の数々だ。

2016年からたった2年で、世界の名医たちから絶賛されるようになった高山医療のプロダクト。販売代理店は世界35カ国に拡大し、年商は5億円を突破した。

なぜ、小さな町工場が作る手術器具が、短期間で世界を制したのか。高山医療だけではない。スモール・ジャイアンツ アワードに選出された企業に共通するのは、無名でも世界から注目されている点だ。

プロダクトが高品質であることと販売実績は、必ずしも比例するわけではない。世界展開の成功の裏には、的確な経営戦略とそれを実行できる経営手腕がある。3社を例にその戦略を分析してみよう。

業界トップの人物を狙え

まずは高山医療の場合。独自のマーケットをいかにして築いたのか。

高山医療の戦略の特徴は、自社プロダクトを、世界最高峰のレベルを誇る組織のトップに立つキーパーソンに、最初に使ってもらった点にある。決裁権を持つカリスマ医師らの信頼を得たことで、自然とその教え子たちに口コミが広まり、ピラミッドのシェアを丸ごと獲得できたのだ。

そのための下地づくりとして、代表の高山隆志はまず、製造工程の8割を機械化し、製品の供給量を約20倍に増やした。さらに、国内トップクラスの脳神経外科医・上山博康と手術用のハサミを共同開発。ダメ出しにも突出した技術で応えて信頼を勝ち取り、“オペ立ち(手術の見学)”を許されたことが転機となった。



これにより、現場での医師のニーズを的確に把握したものづくりのスタイルを確立。従来の「製造元」と「顧客」という関係性の質を転換し、競合他社には真似できない企業価値をつくり上げた。

そして、16年には米国へ進出。高名な大学教授たちにコンタクトした。名医の卓越した手術の技は、ビデオに記録され、世界中の学会や授業などでシェアされる。それを見た他の医師や弟子たちに、自然と口コミでプロダクトの存在が一気に広まっていった。

欧州では、医師向けに行うワークショップを主催する大学教授にアクセス。大学等が主催するトレーニングコースに参加する医師に向けて、練習用の術具セットをどんどん貸し出した。

優れたプロダクトの魅力と口コミによって、世界中から貸し出し依頼が舞い込むようになり、その後はほとんどの医師が即時購入を決める。いまでは、現場の医師と共同で開発する案件も増え続け、世界の一流医師と対等の関係を築く「真のパートナー」になった。それまでの「製造元と顧客」という関係性をパートナーへと変化させ、市場を確立したのである。
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文=Forbes JAPAN編集部 写真=古澤健太

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