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2019.03.01 11:00

人事の視点で考える「働き方改革」。日本企業が向かうべき方向とは?

左よりプロノイア・グループ株式会社 代表取締役 モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト ピョートル・フェリクス・グジバチさん、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香さん、慶應義塾大学大学院商学研究科 教授 鶴 光太郎さん、株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司氏

ここ数年、日本中で議論が巻き起こっているテーマが「働き方改革」だ。「残業時間の上限規制の導入」「同一労働同一賃金の適用」「高度プロフェッショナル制度の創設」という3つの法案が成立し、少し進展を見せている「働き方改革」だが、実のどころ、どうあるのが理想的なのだろうか?

2018年8月2日に行われた「HR Committee Conference」では「働き方改革はこれからどこへ向かうべきか」をテーマにパネルディスカッションを実施。ユニリーバ・ジャパンの島田由香氏、慶應義塾大学大学院商学研究科の鶴 光太郎氏、プロノイアグループのピョートル・フェリークス・グジバチ氏が登壇。人事の視点から、「働き方改革」のあるべき姿が語られた。



■登壇者
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香さん
慶應義塾大学大学院商学研究科 教授 鶴 光太郎さん
プロノイア・グループ株式会社 代表取締役
モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト ピョートル・フェリクス・グジバチさん

■モデレーター
株式会社リンクアンドモチベーション 取締役
麻野耕司


人事がすべき仕事はリーダーへの積極的な働きかけと生産性向上の領域化

麻野:日本では、労働人口減少が進み、多様な労働参画を促す必要が出てきています。また他国と比べ、労働生産性が低いという問題があります。「働く」ことに関して、日本は量的にも質的にも、意欲の面でも問題を抱えています。こうした課題の改善に向け、人事はどのように働き方改革に取り組むべきなのか。先ずはパネリストの皆さんから、答えをいただきたく思います。

島田:具体的に人事がすべきことは、社長、リーダーに対しての積極的な働きかけです。私自身、組織はリーダーで決まるという確信があり、そのビジョンが非常に重要だと考えています。人事は、それも含めて、働き方改革を「なぜやるのか」、またそれを通して「何をしようとしているのか」「どんな世界をつくりたいのか」を、うるさいくらいに言う立場でなければならないと思っています。


ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香さん

麻野:日本は、経営の切り口から人事のことを語れる人事が少ないと思います。経営に自分の意見を届けるために気をつけるポイントはありますか?
 
島田:人事の仕事に自信を持つことだと思います。人事は会社を運営していくうえで重要な「人に関わる部門」なので、現場やその他の部門同様に経営に直接関わっているのです。自分がいる意味を考え、自分の仕事に誇りを持つ。それがあれば、言いたいことを言えると思います。

:働き方改革で、僕が一番問題だと思うのは、制度だけ作って魂が入らないこと。みんなやった気になっていますが、動いてないんです。では何をすべきかというと、生産性向上の領域化です。働き方改革をやって生産性や収益が下がってしまうと本末転倒。無駄なプロセスを洗い出すなかで、仕事のやり方や中身を変えていくことが大切だと考えています。

また働き方改革では、イノベーションを起こすことも重要です。それには創造力を高める必要があります。テレワークやインターバル制度を活用したり、休暇・休息を十分に取ってリフレッシュしたり、イノベーティブな発想を刺激する環境を取り入れるなど、働き方改革と生産性を両立させるためにいろんな取り組みを考えないといけない時期に来ていると思います。

麻野:ありがとうございます。今の日本企業のそういった取り組みや経営課題は、どのように見えていますか?


慶應義塾大学大学院商学研究科 教授 鶴 光太郎さん

:例えば、日本は休暇を取ることが他の人の迷惑になるという感覚があります。日本の場合は、労働者が年休を自由にとれる仕組みですが、逆に取りにくくなっているのも事実。ヨーロッパは指定権が使用者にあるので、バカンスは上司と相談し、1年先の予定を決めます。そしてみんなバカンスに向けて集中して頑張る。日本もそうならないと。時間に対する生産性の意識は変える必要があります。

ピョートル:働き方改革のキーは経営改革です。トップの認識を変える必要があります。その上で、個々についても、生き方改革をしなければならないと思っています。大手企業の社長もサラリーマンです。自身も事業の収益で評価されるため、時間的コストのかかる働き方改革には興味がないでしょう。大手企業の経営改革が難しいのはわかりますが、それをいかに解決するかを、人事の皆さんのミッションの一つにしていただきたいです。

一方で、個人のレベルでは、世界に何をもたらしたいのかという自分の“GIVE”と、世界から何を得たいのかという自分の“TAKE”、その二つを決めた上で、自分の価値観や信念を持ってほしいと思っています。

麻野:サラリーマン経営者だと任期も短く、どうしても組織や人事のイシューが後回しになる方もいると思います。それに対して人事ができることはありますか?

ピョートル:経営者が何に注目しているかを、しっかり把握すべきだと思います。僕がコンサルティングする場合は、先ずトップが持つ課題や、戦略の方針を聞いた上で、次に組織の話をします。経営戦略と人事戦略は二人三脚で動く必要があります。人事の方にも自分が経営コンサルタントとして動くぐらいの意識を持ってほしいですね。


プロノイア・グループ株式会社 代表取締役 モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト ピョートル・フェリクス・グジバチさん

生産性ではなく「幸福度」を計測すべき


麻野:ここからは、会場内の皆様の提言から議論を進めたいと思います。まず「ホワイトカラーの生産性をどう測るのか」。今、生産性の向上がひとつキーワードになっていますが、それぞれどんな風にお考えでしょう?

島田:生産性の測り方はそれぞれの会社で決めれば良いと思います。でも何をインプットとみるのかは大切です。人間の継続的幸福度を測る指標にPERMA※1というものがあります。これが高い人の方が、例えば休む率が減ったり、売上が高くなったりという傾向があります。私は「生産性」を「幸性(しあわせ〜)」と再定義していますが、インプットの本質である社員の状況を見ていくような指標が大事で、それにPERMAが使えるのではと思っています。

※1 P(Positive emotion/ポジティブ感情)、E(Engagement/物事への積極的な関わり)、R(Relationship/他者とのよい関係)、M(Meaning/人生の意味や意義の自覚)、A(Accomplishment/達成感)

:僕も研究で幸福度を見ていますが、働き方や企業の環境などに、明確に影響が出ますね。健康経営を進めている企業は利益率が上がっていますし、多様性の面でも、女性比率の高い企業やLGBTの活用に積極的な企業は、そうでない企業よりも生産性が高いという結果が出ています。

ピョートル:Googleでは、生産性を測ることはありません。ミッションに沿ってOKR※2という目標設定をしますが、そのなかでは当然生産性が低いときもあります。イノベーションに力を入れているので、「前向きに失敗しよう」と強調しているし、ダイバーシティも重視している。ただ、ダイバーシティの高いチームは、そのままでは生産性が低いんです。そこを機能させるには、いかに心理的な安全性をつくっていくかということが非常に大事ですね。

※2 Objective and Key Result(目標と主な結果)



「形ばかり」の働き方改革になっている原因は人事にもある

会場:例えば、経営者が「形ばかり」の働き方改革を行っている場合、人事部として経営者といかに対話し、どのように経営者が目指す姿を描く手伝いをすればよいですか?

麻野:経営者との関わり方ですが、ピョートルさんはどう思われますか?

ピョートル:レームありきで始まるとまず失敗で終わります。「会社のビジョンにとって何が重要なのか」「どんなタレント、環境が必要なのか?」、組織のコアな「軸」として何を問いかけ、何を持つべきなのか。経営者が納得できる状態に持っていき、対話を積み重ねながらあるべき姿に持っているのは人事の仕事です。

島田:人事の立場で“形ばかり”だと見ているのも、深い問題だと思います。経営者の本当の意図を知るには、外側だけで判断せず、深い対話が必要だと思います。リーダーに、恐れや迷いがある場合は往々にしてあります。そこに対して、良い意味でコーチングをしていく、本当のパートナーになることを人事はしていくべきだと思いますね。



会場:個人の生き方改革に会社はどこまで関与すべきでしょうか?

:働き方改革は、大企業を中心とした戦後の日本的雇用システムが限界にきているということだと思います。

これまでの日本のシステムは、2〜3年で異動させられ、辛抱強くいろんなこと経験し、上にあがっていく。欧米は違いますよね。ポストが空いたら手をあげる。生き方改革はそういうことから変えていかないといけない。

島田:ユニリーバでは、キャリアディスカッションの際、上司が部下に「あなたの人生の目的ってなに?」と聞くんです。最初はみんな混乱しますが、初めて人生を考えるようになる。それが去年の夏ぐらいから、グローバルでトレーニングのワークショップになったんです。今は、全社、190カ国でやっています。こういう機会の提供は、やっていくべきだと思いますね。考えるのは自分なので、時間のかかる人もいますが、諦めず、必ずみんな出来るようになるという信念を持ってやっています。

会場:ビジョンを構想する力が極めて大事だが、何かを構想するときに具体的にどういう思考、分析の使い方をされていますか?

麻野:人事がビジョンを持つためには、どんなことをすれば良いでしょう。

ピョートル:日系企業の人事は、同じ業界の隣の会社を教科書にして動いている。これは良くないと思います。日本の企業のベストプラクティスはベンチャー企業から出ていて、彼らは隣を見ていない。もちろん制約はありますが、実験をすれば良いんです。うまくいかなければ、止めれば良いという考え方で、自分でやれば良いと思います。

:先程ピョートルさんおっしゃった、「自分は世界に何を与えて世界から何をもらうのか」こんな小難しいことを言う人は、大企業は誰も採りたくないんですね。でもそこまで考えが及ぶ人じゃなければビジョンやミッション、みんなが共感できるものを創り上げることはできないなと思うんです。壮大なスケールの考えを持つ、そういう人材を育てないといけないと思いますね。

「フィードフォワードを実践しろ」「自分の常識を疑え」「生きる道を見つけろ」

麻野:最後にパネラーの皆さんから、会場の皆さんにメッセージをお願いします。

島田:みんなにお願したいのは、ワクワクすることを考えて欲しいのと、誰かが勇気を出して発信したアイデアを応援すること。それから「フィードフォワード」を実践することです。フィードバックではなく、相手の良いところを見つけ、自分から言う。これは自分でできることなので、ぜひやってほしいと思います。

ピョートル:ぜひ自分の常識を疑ってください。常識を破って、できるだけ早く前向きに失敗していただきたいですね。人事はすごく面白い仕事ですが、おそらくここにいらっしゃる方々の8割は面倒でつまらないと思っている。その常識を破っていただいて、こういう建設的な対立をしてほしいですね。人事というのは経営であり本来は面白い仕事。その経営をしないというのは、もったいないです。
人事として、働く社員一人ひとりの「自己実現」を支援してください。

:メッセージというかコメントになってしまいますが、これからの日本を考えるとやっぱり人と違うことを言う、人と違うことをやる、そこに主張や、生きる道を見つけることが大事だと思います。今日のセッションを通じて、そうしないと変わっていかないということが、よくわかりました。ありがとうございます。

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