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2018.10.15 11:00

新時代の教育論、人を前向きにさせるある「想い」とは

左:池田祥護氏 中央:下村博文氏 右:青木仁志氏

2012年に文部科学大臣に就き、国家戦略としての教育改革を主導した衆議院議員、下村博文氏。そして人材教育のコンサルタントとして、これまでに38万人の研修をしたアチーブメント代表取締役社長、青木仁志氏。そんな日本青年会議所(JC)OB二人に日本JC第67代会頭、池田祥護氏が訊く、人を育てる方法論とは。


池田祥護(以下、池田):下村博文先輩と青木仁志先輩は、それぞれ政界と財界の立場から教育再生をリードしてきました。まずは、おふたりのJCに入会したきっかけを教えてください。

下村博文(以下、下村):28歳のころ、学習塾経営の傍らでミニコミ誌を発行していたのですが、東京都を取材したとき、職員から東京JCの城北ブロックが主催する教育委員会の対談企画を教えられたのです。それまでJCのことを知らなかったので、早速担当者に会ってみると、まあすごい団体だなと思いました(笑)。

池田:賛同したのですか。

下村:率直に言って、そうあるべきだと感じました。そもそも教育委員会を取材する企画なんて聞いたこともなかったし、教育という取り組みを前向きに捉え、未来を自分たちで切り開いていこうという、まさに志をもった若い人たちの集まりというのは素晴らしいなと思いましたよ。国歌斉唱はともかくとして(笑)。

池田:青木先輩はいかがでしょうか。

青木仁志(以下、青木):私は34歳のときに入会しました。起業して間もないころで、経済的に苦しく必死に頑張っていたときだったのですが、友人から「仲間が増える」と誘われたのです。そうしたらすぐに本業の教育関係に携わることができ、下村さんと知り合った日本JCの教育部会では、オーストリアのウィーン大学やアメリカのハーバード大学を訪問し、議論を重ねました。そのとき行動を共にした仲間とは、今でも付き合っており、かけがえのない経験をしたと思っています。

池田:JC活動を振り返ってみて、どんなところに学びがありましたか。

下村:やはり人間関係ですよ。JCに入るまでは、みんなそれぞれがお山の大将だったり、わがままな2代目だったりするわけですが、そこでは立場や考え方が違う人たちが集まるので、議論していかないとひとつの方向にまとまらない。それも金儲けではなく、ボランティア活動でやる。トラブルはしょっちゅうありましたけど、それが学びとなり、また財産となりました。私が選挙に出馬するときも、JC関係の方々に支えられた。JCに入ったことで人間の幅と、新たな道が切り開かれたのです。

池田:なぜ政治家を目指したのですか。

下村:JCとは、志だと思うのです。それは夢とは違う。夢というのは自己実現することですが、志は自分という存在が地域のため、国のために、何をなし得るかということにビジョンをもち、それに向かって行動することです。そうすると、それはひとりではできないから、仲間を巻き込むことになる。その仲間が多ければ多いほど、世の中を動かしていけるような原動力になる。JCでそれに気付いたことが、政治家を目指すきっかけとなりました。


衆議院議員 下村博文氏

青木:私の場合は、本業がどん底のときにあって、JCで尊敬できる人に出会ったことが大きい。私と同じ起業家なのに、JCの役割をしっかりこなしながら本業を成長させている。そういう生き方を目の当たりにし、貴重な学びを得ました。ただ、現役時代を振り返って思うのは、時代は大きく変わったということです。

能力を引き出すファシリテーター

下村:同感です。決定的に違いますよね。私のJC時代は、かれこれ30年ぐらい前の高度経済成長期ですが、言わば司馬遼太郎の『坂の上の雲』ですよ。企業の会社員は、兵隊のように上長に逆らわず、黙々と一生懸命やっていれば何とかなった。しかし、今の時代、そしてこれからはAIの時代にあって、必ずしも上長が示す方向性が正しいとは限らず、それに愚直に従う姿勢はむしろ評価されません。無から有を生むようなクリエイティブな発想が求められている。それができなければ、淘汰されてしまうのです。

池田:生き残ることが厳しくなっています。

下村:その一方で、こんなに自己実現ができる時代もないと思うのです。30年前は自己実現というカテゴリーすらなかった。自ら考え、判断し、表現することは求められなかった。だから今は、競争は厳しいけれども、面白い時代になったと思いますよ。

池田:なるほど。人生を前向きに捉えている人には、いい時代になったというわけですね。するとそこでは、己の道を自ら考え、切り開いていく人材が求められます。これからの教育のあり方についてお考えを教えてください。

下村:私は吉田松陰が日本を代表する教育家だと思っているのですが、彼がやった手法を今の時代に合わせていえば、インプット教育ではなくアウトプット教育になります。ここがポイントで、学校の先生はティーチャーからファシリテーターになる。つまり、子どもたちに知識を教えるのではなく、子どもたちがもっている能力を引き出してあげるのです。もともとエデュケーションの語源は「引き出す」ですから、原点回帰ですよね。

青木:私はこれまで38万人の人材育成、5000人を超える中小企業経営者教育に従事してきました。その中で私が見出した「人生の方程式」があります。それは「その人の人生=先天的特質×環境×本人の選択」です。先天的特質と環境はコントロールできませんが、本人の選択はコントロールできます。そして人生を決定するのは、前者2つではなく、「本人の選択」にあるのです。

さらに言えば、その人の選択の質はたしかに本人次第なのですが、親の教育によってより良い思考と行為を選択しやすくなります。そういった意味で、親教育は大変重要です。親の考え方が否定的で、子どもの自己肯定感が下がる接し方ですと、子どもは良い思考と行為を選びにくくなるでしょう。


アチーブメント代表取締役社長 青木仁志氏

池田:では、どうやって親は学んでいくべきなのでしょうか。

下村:これはぜひ、JCメンバーに伝えてほしいことですが、できるだけJC活動に子どもを参加させてほしいのです。つまり、親の背中を見せて育てる。例えばわんぱく相撲でもいい。子どもからすると、もしかしたら最初は、こんなくだらないことって思うかもしれない。でもそれを一生懸命やっている親の姿を見ると感動するのではないかと。うちのお父さんは偉いと。そうすると少なくとも、グレないですよね。

青木:確かにそうですね。誠実という言葉を辞書で引くと、「私利私欲に走ることなく真心をもって人や物事に対すること」と書いてある。私は、自分の子どもをすごく愛しているのですが、今まで子どもとの約束を破ったことがないのです。例えば一緒にキャンプに行くと約束したら、必ず守ってきた。実はこれは職場や地域社会においてもいえることで、要は真心をもって信用を得るということです。

自分なりに覚悟を決めた

下村:ここでひとつお話ししたいことがあるのですが、実は、私は長男が小学校6年生のとき、突然イギリスに留学させてしまったのです。全然英語がしゃべれないのに。なぜかというと、長男は国立大学の付属小学校に合格するなど非常に頭が良かったのですが、4年生ぐらいから急に漢字が覚えられなくなってしまったのです。

調べてみたら、学習障害でした。今から20年ほど前のことですが、当時はそんな言葉は聞かれなかった時代です。先生は理解できず、長男はいじめられ不登校を繰り返した。そこで、理解のあるイギリスの上流階級が通うパブリックスクールに転校させたのです。

うちの家内は毎日泣いていましたよ。幼い我が子を、いきなり言葉が通じない外国に預け渡した。ある意味で子どもを捨てたようなものです。でも、日本には子どもの居場所はなかったのです。それで、しばらくしてイギリスに会いに行きました。本人が帰りたいと言ったら連れて帰ろうと思っていたのですが、長男は、泣き言ひとつ言わなかったのです。結果的にその後、優秀な成績で世界トップクラスの芸術大学、ロンドン芸術大学に進学し、今はアートディレクターとして世界を舞台に活躍しています。

長男が大人になってそのときのことを聞いたら、こう言っていました。

「僕も本当はお父さんとお母さんと一緒に帰りたかった。でもそうしたら自分は駄目になってしまう。学校では日本人は自分ひとりだったから、やっぱりいじめられたけど、ここで頑張らないともう、どこに行っても生きられないかもしれないと思ったから」と。

親子関係というのは順風満帆にはいかなくて、トラブルや挫折がつきものです。でも、親は子どもに対し、いつも考えているのだという姿勢を見せる。たとえ地獄の果てに行ったとしてもお父さんは決して見捨てないと宣言する。そうしてこそ、信頼関係が生まれ、子どもは前向きに生きていくのです。

池田:まさに自己肯定感を高めていく教育方法ですね。

青木:同感です。指導者の必須条件は、相手を思いやる気持ちや優しさなのです。利己的な人間には誰もついてこない。私が下村さんを友人として尊敬するのは、世のため人のためになることを必死に考え、そして命を懸けて取り組んでいるからです。現役のJCメンバーの皆さんもぜひ、そういう志をもって生きてほしいと思っています。

池田:大変勉強になりました。本日はありがとうございました。


下村 博文 Hakubun Shimomura◎1954年群馬県生まれ。78年早稲田大学卒業。89年東京都議会議員初当選、93年都議会厚生文教委員会委員長、96年自民党都連青年部長を経て、同年に衆議院議員初当選。2000年自民党青年局長、04年文部科学大臣政務官、06年内閣官房副長官、12年自民党教育再生実行本部長を歴任し、同年発足した第2次安倍内閣で文部科学大臣に就任。著書に『教育投資が日本を変える』(PHP研究所、2016年)などがある。84年東京JC入会。

青木 仁志 Satoshi Aoki◎1955年北海道生まれ。外資出版の日本ブリタニカなどを経て、87年アチーブメントを設立し、代表取締役社長に就任。人材教育トレーナーとして目標達成プログラム『頂点への道』講座スタンダードコースの講師を務め、676回連続開催中。これまでに38万人を研修。2010年から3年間法政大学大学院客員教授。著書にシリーズで30万部のベストセラーとなった『一生折れない自信のつくり方』(アチーブメント出版、2009年)など。89年東京JC入会、94年日本JC教育部会第7代部会長。

池田 祥護 Shogo Ikeda◎1978年新潟県生まれ。事業創造大学院大学事業創造研究科修了。2009年新潟総合学院理事長に就任。同年新潟JC入会、13年日本JC総務委員会委員長、13-14年JCI APDC議長、14年日本JC会務担当常任理事、15年新潟JC理事長、16年日本JC専務理事、17年日本JC副会頭などを経て、18年会頭に就任。




鼎談が行われた日本料理店、四四A2。一枚板のカウンターでゆったりと四季折々の味を堪能できる。2016年には『Tokyo Brand Collection』にも掲載。


日本料理 四四A2(よしあつ)
東京都渋谷区恵比寿2-13-10レンブラント広尾 1階
☎︎03-6277-3150
営業時間:11:30 〜15:00 18:00 〜23: 00(完全予約制) 不定休(日曜営業)
http://nihonryouri44a2.com

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Promoted by We Believe Text by Hideyuki Kitajima (Forbes JAPAN) Photographs by Masahiro Miki Hair & Make-up by Masaki Yoshinaka (Perle management)

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