米主要大学で初、ニューヨーク大が医学教育を無料化

ケネス・G・ランゴーン理事長(Photo by Mike Coppola/Getty Images for NYU Langone Medical Center)

ニューヨーク大学の医科大学院は先週、成績や経済状況にかかわらず全学生の授業料を学校側が負担するという驚きの発表を行った。米国の主要医学校では初の試みだ。この発表は、新入生が白衣を着て参加し医学教育の開始を記念する毎年恒例の「白衣授与式」で行われた。

ニューヨーク大学ランゴーン医療センター理事会のケネス・G・ランゴーン理事長は「大学の理事、卒業生、友人らの並外れた寛大さを受け、我々は医学校の門戸を広げることで、全米の医学教育を刷新するための旗振り役になることを願い、見込んでいる」と語った。

ホームセンター大手ホーム・デポ(Home Depot)の共同創業者として35億ドル(約3900億円)の富を築いたランゴーンは、妻のエレインと共に、授業料無料化の資金として1億ドル(約110億円)を寄付。同大は、無料化に必要な6億ドル(約663億円)のうち、4億5000万ドル(約500億円)以上を既に集めている。

ニューヨーク大学は声明で、医療業界では今、「学生の抱える莫大な負債」により、医療制度に悪影響を及ぼす変化が起きていると指摘した。医学生らは、家庭医療や小児科、産婦人科でなく、より高収入な専門分野を目指すようになっている。

選ぶ診療科によっては、大きな収入格差が生じることもある。ある調査によると、医師の平均年収は小児科が22万1900ドル(約2450万円)、内科が26万ドル(約2870万円)だった一方で、収入がトップレベルの神経外科は66万2755ドル(約7320万ドル)、整形外科は53万7568ドル(約5940万円)だった。

ニューヨーク大ランゴーン医療センターのロバート・I・グロスマン学部長は、同大の声明の中で、「私たちのような多様な人口は、さまざまな背景を持つ医師のサービスを受けることが最善であると、われわれは考える。内科医や外科医を目指す人々が、莫大な負債を抱える心配によって医療のキャリア追求を阻害されるべきではない」と述べている。

ケース・ウェスタン・リザーブ大学の医科大学院では、2008年に授業料やその他の費用を無料化したが、対象となる学生はわずか32人だ。ニューヨーク大の奨学金制度は、400人以上に適用される。

高額なニューヨーク生活費は学生負担

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のデービッド・ゲフィン医科大学院は、1億ドル(約110億円)規模の基金を設立し、4年間の家賃や食費を含む全費用を負担している。

しかし、この制度は必要に応じたものではなく、優秀な学生にのみ給付され、対象となるのは全体のわずか20%だ。

ニューヨーク大の奨学金制度で提供される年間授業料は5万5018ドル(約610万円)。同制度は新入生だけでなく現役の学生にも適用され、既に納入済みの今年度の授業料は返還される。さらに、学生が既に組んだローンも大学側が肩代わりする。

米国医科大学協会によると、医学生が卒業時に抱える負債の中間値は19万2000ドル(約2100万円)だ。

ニューヨーク大の新制度では、米国で生活費が最も高い都市の一つであるニューヨークで暮らすための家賃や食費は支給されない。同大に在学中の家賃と食費の合計は年間約2万7000ドル(約300万円)にも上る。同大の2017年の卒業生が抱えていた負債の平均額は18万4000ドル(約2000万円)だった。

編集=遠藤宗生

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