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2018.09.26 11:00

「革新のメガネ」を通して伊藤元重が見た可能性

「タッチフォーカスは、シニア世代に新しい価値を提供できる興味深い製品ですね」。そう語るのは、東京大学名誉教授にして、学習院大学国際社会学部教授であり、多くの政府審議会にも名を連ねる伊藤元重。今回タッチフォーカスを実際に使用した伊藤は、液晶レンズを搭載したこの次世代型メガネに、どのような日本の経済への可能性を見いだしたのだろうか。


存在感を高める日本の素材メーカー

タッチフォーカスを手掛ける三井化学は、総合化学メーカーとしてさまざまな素材の開発・製造を行っている。なかでもメガネレンズ材料は、世界シェアナンバーワンを誇る。

日本経済を長く多面的に分析してきた伊藤は言う。「素材産業は、今後日本の経済において成長可能性が高い分野だと思っています。これから日本の素材メーカーは、特定の分野に特化したトンがった製品を開発し、それをグローバルで仕掛けていくと面白いでしょうね」

日本の競争力が高かった時代は、自動車も家電も日本製の部品を使い、日本で組み立てた完成品を国内外で販売していた。しかし現在その流れは、より上流へ。iPhoneに象徴されるように、海外メーカーにも日本のデバイスが多く採用され、特定の分野で高いシェアを誇っている製品も少なくない。

「素材なら、技術力での差別化もしやすいでしょう。今回三井化学のタッチフォーカスは、素材だけでなく最終的な製品まで手掛けています。他のメーカーに作れないような素材・技術と最終プロダクトが一緒になれば、さらに強みを発揮するでしょう。非常に良いビジネスモデルだと思いますね」

近用度数をオンオフできる構造。広く快適な視界を実感

このタッチフォーカスは、三井化学の素材開発力を駆使して生まれた液晶レンズを搭載し、スイッチひとつで度数を変えることが可能。まさに素材メーカーだからこそできたアイテムだと言える。

〈TouchFocus〉

タッチセンサーに約1秒触れると、瞬時に遠近を切り替え。普段は〈遠・中〉域レンズとして広い視認エリアを確保できる


今回このタッチフォーカスを体験するに当たり、伊藤をまず驚かせたのはその見た目だという。

「最初に『ワンタッチで度数が変わるメガネ』と話を聞いたときには、ウェアラブル端末のようなものを思い描いていました。実際に拝見すると、見た目はメガネそのもの。とてもヒューマンな印象ですね」

伊藤は15年ほど前に老眼が始まって以来、普段は一般的な遠近両用メガネを掛けながら、家で読書をするときは近用のメガネに掛け替えるといった具合に、複数のメガネを用途に分けて使用している。そんな伊藤にとって、タッチフォーカスの使用体験は、これまでの遠近両用メガネとはずいぶん異なっていたと言う。

「まず実感したことは、これまでの遠近両用メガネに比べて、だいぶ目がラクな印象です。特に、室内など中間距離の視野が広がったように感じます。遠近両用メガネは1本のメガネで遠くから近くまで見えるようにするという設計上、目もそれに合わせて無理をしていたのかもしれません。実は日常生活において手元の距離を見ることは、そう頻繁にあるわけではないんですよね」

タッチフォーカスは、普段スイッチがオフだと「遠方と中間距離」の視界だけを広くカバーする遠中レンズ設計となっている。タッチセンサーに触れてスイッチをオンにしたときだけ、レンズ上に近用度数の入ったリーディングゾーンが出現する。日常生活において近用度数を頻繁に必要としない伊藤には、この近用度数をオンオフできる構造が、より快適な体験につながったのかもしれない。

「その一方で、スイッチを入れたときには、遠近両用メガネより細かい文字もよく見えます。仕事中は、細かい数字が入った資料を読む必要があるのですが、その時にタッチフォーカスがあると安心感を持ってその資料を読むことができます。心理的なものですが、こうした安心感は重要だと思いますね。使い慣れてくればタッチフォーカス1本で賄えそうです」

私自身もそう。ガジェット好きなシニアに

さらには、伊藤の意外な一面が垣間見えるこんな感想も。


製品は価格よりも、ニーズに応えられるかが大事だという伊藤

「実は僕、こうした新しいガジェットが大好きなんですよ。パソコンもしょっちゅう買い替えますし、iPhoneも新しいバージョンが出たらすぐに替えていますしね(笑)。シニアにもガジェット好きは案外いますし、高齢化に向かう中、そうした方たちにこれまでのメガネとは違う新しい価値を提供することは、とても可能性のあることだと思います」

ガジェット好きということもあり、同世代の友人や知人に自身のタッチフォーカスを見せては話題にしていたという伊藤。するとリアクションは上々で、ニーズの高さを実感したという。

「同世代の関心はとても高かったです。ただ、25万円という価格にひるんでしまう人も少なくない。まあ現在はメガネ1本1万円以下で作れてしまう時代で、一方で100万円近く出す人もいるわけで。行動経済学でアンカリング理論と呼ばれるものですが、20年前のアメリカで、コーヒーは1ドルでした。そうした刷り込みがあるなか、スターバックスは店の雰囲気やコーヒーの品質など、これまでと異なる価値を提供することで、3倍、5倍の価格で成功したわけですよね。ですからタッチフォーカスも、これまでのメガネとはまったく異なる革新的なものだという価値が伝われば、そもそも毎日使うものですし、価格ではなく納得の問題になります」

新たなライフスタイルに価値を見いだす

日本でもっとも人口が多いといわれる65歳から69歳は、2017年時点で1024万人。これに70歳から74歳までの1550万人を加えると2500万人以上となり、全人口の5分の1を占める(*)。この世代に新しい価値を提供できれば、経済に与えるインパクトも大きいだろう。


伊藤の選ぶタッチフォーカスは、シックなカラーリング。

「例えばJINSはなぜ成功したかといえば、視力矯正器具であるメガネにおいて、ファッション性を打ち出したからですよね。加えてリーズナブルな価格で、“メガネを掛け替えて楽しむ”というライフスタイルを提案し、新しいマーケットを生み出したわけです。タッチフォーカスも、40代以上の老眼世代に新しいライフスタイルを提案していくことがカギとなるでしょう。『新しい視界の価値』を提供するアイテムと位置付ける。従来の『メガネ』というカテゴリーに当てはめる必要もないのかもしれませんね」

老眼は40代から急速に進行するという。タッチフォーカスは、高齢化の進行する日本において、より多くの人々にさまざまな可能性を提案できるプロダクトと言えるだろう。

「例えば株をやる人ならこのメガネなら“株価の推移がよく見える”とか(笑)。特に視力矯正のためのメガネは一日中掛けているわけですから、消費者にいままでとは違うバリューを伝えていくことも大事になるでしょう」

タッチフォーカスの登場により、たとえ老眼であっても液晶レンズの利便性を享受し、より自由に、より活動的に、より生産的に趣味や仕事に打ち込むことができる。そんなエポックメーキングなアイテムとなることで、日本の経済にとっても大きな後押しになるかもしれない。

「文字通りウェアラブルであるメガネの機能が進化することは、ライフスタイルに大きな影響を及ぼすはずです。シニアになると、気持ちは元気でも、体が付いていかない面が出てきます。文章を読むときの視力と持続性などはその典型です。タッチフォーカスの登場と今後の進化によって、シニアの活動をサポートしていただければと期待しています。シニアが元気になり、企業が攻めの姿勢に変わっていけば、日本の景気も上向きになりますしね」

* 総務省2018年人口統計調査より。
「タッチフォーカス」は三井化学の登録商標です。

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https://www.touchfocus.com/

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