ビジネス

2018.05.13

10年で約25倍、急成長するソーシャルビジネスの現場

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いま、貧困・教育・環境・介護・子育て・紛争など様々な社会的課題をビジネスを通じて解決・改善しようとするソーシャルビジネスの市場が世界的に拡大している。イギリスやアメリカなど欧米先進国が牽引してきたこの分野で、ここ数年での日本の成長は目覚ましい。

内閣府の委託で三菱UFJリサーチ&コンサルティングが調査し、2015年に公表した「我が国における社会的企業の活動規模に関する調査」によると、日本国内でソーシャルビジネスを手がける企業の数は約20万5千社で、有給職員数は約577万6千人。それらの企業の付加価値額は16兆円で、対GDP比で3.3%を占める規模に成長したという。

ちょうど10年前、2008年に経済産業省が公表した「ソーシャルビジネス研究会報告書」では、ソーシャルビジネスを手がける企業の数は約8000社、市場規模は2400億円で、潜在的な利用者の掘り起こしに成功すれば2.2兆円まで伸びると試算した。こうした数字を振り返ってみると現在の成長ぶりがあらためて実感できる。

私自身、6年前に市民メディアの育成を手がけるNPOを立ち上げ運営を続けてきたが、昨年5月、ソーシャルビジネスの現場を専門に取材し映像を使って発信するメディア「GARDEN Journalism」をスタートさせた。テレビ報道の現場にいると、政局やスキャンダルを扱う番組の多くを占める状況に、危機感を感じたからだ。

「貧困、子育て、教育、紛争、介護、経済などもっと他に伝えることがあるだろう」という視聴者の憤りがSNSなどを通じて放送中に私の手元のパソコンに届く事も日常茶飯事で、既存のニュース発信だけでは、市場に対しても視聴者に対してもニーズを満たす事ができない、専門メディアが必要だと痛感した。

私自身「ソーシャルビジネスは儲からない」という印象が強かったが、GARDENでの取材を通じて様々な取り組みに触れると、経営者達が試行錯誤を重ねながらチャレンジを続けている事がよくわかった。

食が起点のセーフティーネット作り

特に、この1、2年での変化は特筆すべきほどだ。その動きの中でも今回は、NPO、企業、行政、財団などがお互いの強みを活かして共同でプロジェクトを立ち上げ課題解決を目指すアプローチ「コレクティブ・インパクト」について紹介したい。

例えば、子どもの貧困問題を改善するために、文京区と5つの非営利団体がコンソーシアムを立ち上げ、経済的に困窮する家庭に食品を届ける取り組み「こども宅食」が代表例だ。


(c)こども宅食

大量の食料品が廃棄されてしまう「食品ロス」の問題に注目し、大手飲料メーカーや食品会社などと協業して効率よく食材を調達して届ける仕組みを作り、財源の確保にふるさと納税を活用することで、インターネットサイトを通じて目標額の4倍にあたる8千万円を超える資金が全国から集まった。

コンソーシアムで責任者を務める認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さん(38)は、昨年5月に、米ニューヨーク州ボストンで開かれたコレクティブ・インパクトに関する国際的な会議にも足を運び、世界の潮流を肌で感じ学んで帰ってきた。その経験は「こども宅食」の取り組みに活かされた。

「こども宅食」事業では、LINEを通じての直接的なやり取りやアンケート、また宅配時に宅配員が気づいたことをチェックシートに記入し事務局に報告するなどの形で、対象世帯へのソーシャルワークも行う。


認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さん (c)GARDEN Journalism

「子どもたちの元に食料を届け、そこで繋がり、厳しい環境にあるご家庭の相談にのり、そしてソーシャルワークをしていきながら共にご家庭の課題を解決していく。食料を届けるだけでなく、そこから後につながる支援、セーフティーネット作りが大切な部分だと感じている」

駒崎さんたちは、短期的に終わってしまう支援ではなく、仕組みづくりにつながる支援を目指す。
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文=堀 潤

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