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2018.03.06 10:00

監督賞はまたもメキシコ出身、アカデミー賞の「国際化」事情

ギレルモ・デル・トロ監督 (Photo by Frazer Harrison/Getty Images)

第90回のアカデミー賞で、いちばんの栄誉とされる作品賞は、ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」に輝いた。話し言葉を失った女性とアマゾンの神と崇められる異形の生物との「恋愛」物語は、アカデミー賞史上初めて作品賞を受賞した「怪獣映画」とも言われている。

監督であるギレルモ・デル・トロは、幼い頃、日本の怪獣映画を観て強い影響を受けた。尊敬するのは特撮監督の円谷英二だとも伝えられている。日本のアニメやコミックにも造詣が深く、押井守や大友克洋などの作品も愛してやまない。映像作品の特殊メイクに関わった後に、積年の念願でもあった映画監督にも進出した。

これまでの監督作品には、アメリカン・コミックの映像化である「ヘルボーイ」(2004年)、世界各国の映画賞で賞に輝いたダークファンタジー作品「パンズ・ラビリンス」(2007年)、太平洋の海底から現れる怪獣たちと巨大ロボットが戦う「パシフィック・リム」(2011年)などがあり、どちらかというと「アンチリアル」な作風の監督として受け入れられていた。

今回、アカデミー賞の作品賞を受賞した「シェイプ・オブ・ウォーター」には、アマゾンで捕獲された水棲の生物は登場するが、かなり現実にも寄り添った設定になっており、第二次大戦後の東西冷戦を時代背景に、主人公である話し言葉を失った女性の充たされぬ心情と愛のかたちが実に丁寧に描写されている。特殊撮影、ファンタジー作品、怪獣映画の監督と見られていたこれまでのギレルモ・デル・トロ監督の新たな一面をのぞかせた作品でもあったのだ。


作品賞を受賞した「シェイプ・オブ・ウォーター」の出演者、監督、スタッフら(Photo by Kevin Winter/Getty Images)

さて、「シェイプ・オブ・ウォーター」は作品賞にも輝いたが、今回のアカデミー賞では、ギレルモ・デル・トロは、監督賞も併せて受賞している。実は、このアカデミー賞の監督賞は、今回のギレルモ・デル・トロの受賞により、直近5回で実に4回、メキシコ出身の監督が受賞したことになる。

まず、2013年は「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン、2014年は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、そして2015年はイニャリトゥが「レヴェナント: 蘇えりし者 」で2年連続受賞。昨年度こそ「ラ・ラ・ランド」でアメリカ人監督のデミアン・チャゼルが受賞したが、今回のギレルモ・デル・トロ監督含めこの5年間で都合4回、3人のメキシコ出身の監督が受賞している。

しかも、このアルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロの3人は、2007年にメキシコで「チャチャチャ・フィルム」という映画製作会社も共同で立ち上げており、いわば盟友と言ってもよい。ちなみにキュアロンが1961年生まれ、イニャリトゥが1963年生まれ、デル・トロは1964年生まれと、仲良く歳の順に、監督賞を受賞きた。


(左から)アルフォンソ・キュアロン、ギレルモ・デル・トロ、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(Photo by Nick Wall/WireImage)

また、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが2年連続で監督賞を受賞した2015年は、同じくメキシコ出身のエマニュエル・ルベツキが史上初の3年連続で撮影賞に輝いており(対象作品は、もちろん「ゼロ・グラビティ」、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」、「レヴェナント: 蘇えりし者」)、ハリウッドに「メキシコ旋風」が吹き荒れたとも言われた。そして、また、今年度の監督賞はメキシコ出身のギレルモ・デル・トロだ。
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文=稲垣伸寿

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