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2015.02.02

ロバート・ゼーリックと 「地政学と世界経済」を考える




「蔓延する政治リスク」が、 経済の構造改革を阻む
世界がニュー・ノーマルから脱するには、政治的な決断が必要だ。しかし政治がコントロールできるかどうかは、地域によって大きな差が生まれようとしている。


ロバート・ゼーリックの名前が、日本で一般的に知られるようになったのは、小泉・ブッシュ政権の時だろう。国務副長官だった彼は、「中国は責任あるステークホルダーになるべきだ」と持論を展開。国際社会での中国の位置づけを変えさせて話題になった。世界銀行総裁に就任すると、胡錦濤総書記、李克強副首相(いずれも当時)と面会。彼は中国側と改革への共同研究を始め、「中国2030」というレポートを発表している。
米外交評議会のメンバーでもあるゼーリックは、「鳥の眼」と「虫の眼」で世界の事象に分け入る。そこに、地政学の要素である「人間心理」を通して、原因と結果だけでは 説明できない「副作用」を看破していく。地政学×世界経済×リーダーの心理から見えてくる、「明日のリスク」を聞いた。
※以下本誌インタビュー記事より抜粋



緊張と不確実性は、地域に縛られない

高野:モハメッド・エラリアンは「今年はマルチスピード・ワールド(経済成長の多速 度的世界)」の局面に入ると言っています。米国の出口政策が現実的になっている中、何がポイントとなると考えますか。
ゼーリック:15年はアメリカが最初に金利を上げることに加え、市場の動きは実体経済で、そして企業は資金フローだけではなく、収益に基づいて評価すべきだと認めることになるでしょう。アメリカの状況は広範にわたって緩やかに回復していると思われますが、いい状況と悪い状況が混在しています。(中略)
金融政策はチャンスをつくりますが、問題を解決できません。需要を高めるために金融政策を行うと、為替切り下げ競争になるリスクがあります。各国と企業は構造改革が必要であり、生産性を高めて成長を創造する手段として非常に重要なのが貿易だと思います。
(中略)

高野:地政学上のリスクを言えば、地域に縛られないリスクが登場していると思います。
ゼーリック:その通りです。イスラム国(ISIS)、そしてシリアとイラクにおける国家制度の崩壊を見れば明らかです。シリアやイラクの国境はどこにあるのか? 国家制度が崩れた状態です。オスマン帝国が解体されたとき、境界線の問題をコントロールしたのは、イギリスとフランスでした。しかし、いま、誰がコントロールできるのでしょうか。宗派によって、これまでと異なる境界線ができています。これらを解決するには長い時間がかかり、暴力と崩壊が起きる可能性が大きい。いまの状況では、ヨルダンの安定やエジプトの政治制度の基盤をつくるために、経済を 活性化することが非常に大事になります。
さらにイランの核開発と、それがトルコ、サウジアラビア、湾岸諸国にもたらす不安があります。また、イスラム急進派とテロ活動がもたらすリスクは、その地域に限らず、シドニーやカナダでの襲撃事件、パキスタンでの学校襲撃など悲惨な殺戮と不安、そして悲壮感を生みだしています。地政学的環境によって、緊張と不確実性が生まれ、拡散しているのです。

高野:世界経済の不安定さが、地政学的なリスクの高まりをもたらすというわけですね。
ゼーリック:よい知らせは、アメリカ経済が比較的良好な成長を続けるであろうということです。ただし、課題があります。ここまでお話ししてきたように、非常に特別な財政金融政策に決別する必要があり、それには政治的な決断の段階にきた、ということです。

高野 真(本誌編集長) = インタビュー

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