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2017.07.04 08:00

スーダンで「僻地医療改革」に挑む日本人

医療チームが2週間かけて村を移動しながら、無医村に医療を届け、トレーニングなども行う。

外務省の医務官という立場を捨て、スーダンで巡回医療のNGOを立ち上げて11年。ロシナンテス理事長川原尚行は、持続可能な地域医療を支えるための新ステージに立つ。

医療施設はおろか、水道や交通網などの社会インフラが整っていない地域で、一台のタブレットが果たす役割は想像以上に大きい。スーダンの首都ハルツームを拠点に活動する認定NPOロシナンテスの理事長として、周囲に点在する無医村で巡回医療を行っている川原尚行は今、日本の中小医療機器メーカーと協力し、タブレットに接続して診療に使える機器を安価で生産する方法を模索中だ。
 
例えば、妊婦や腹部の診断用のポータブルエコー。プローブ(探蝕子)をUSBポート経由でタブレットなどデバイスにつないで使う。通常より安価で作れる上に持ち運びが容易なことが利点だが、それでも日本や欧米のハイエンドなマーケットを対象にした従来品はコストがかかる。機能は必要最低限まで削ぎ落とし、コストを極力抑えるようメーカーに掛け合った。

「何より大切なのは、壊れないこと」と川原。悪路を走る診療車の振動や、ヘビーユースに耐えうる頑丈な設計はマストだ。途上国ならではのニーズを反映させたエコーは、現地の助産師への教育プログラムとセットで普及させれば、持続的な医療コミュニティの形成につながる。

ICTを利用した、医療従事者向けの情報共有システムを導入する構想もある。目下の課題は、共通言語をどうするか、だ。医師がいない地域ではビレッジ・ミッドワイフと呼ばれる助産師やコミュニティー・ナースが多く活躍しているが、彼らの中には文字が読めない人も多い。
 
スーダンは、国際テロ支援と人権抑圧を理由に1997年から20年にわたりアメリカからの経済制裁を受け続けてきた(今年1月に一部解除を発表)。アメリカとの関係を危惧して取引にナーバスになる事業者も多く、現地で活動するNGOにとっては協力を仰ぎやすい環境ではない。
 
そんな困難な状況下、川原は医療活動の合間を縫っては日本に飛び、医療メーカーやベンチャーなどを巡って根気よく協力の交渉を続ける。最近は逆に、川原が現地で培った医療モデルを学びたいと、相談を受けることも増えた。

「アフリカの僻地医療の問題は、日本の地方が抱える問題と似ている」。川原自身、そう確信している。


川原尚行◎ロシナンテス理事長。1997年九州大学大学院医学系研究科修了後、外務省へ入省。医務官としてタンザニアに赴任、英国、スーダンでの勤務を経て、2005年外務省辞職。翌年に特定非営利活動法人ロシナンテスを設立。スーダンの無医村を回る巡回医療をはじめ、診療所の建設や栄養改善、水事業などを行う。

文=水口万里

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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