『風姿花伝』から学んだ“心を伝える”ことの大切さ [CEO’s BOOKSHELF]




風姿花伝
世阿弥(著)
野上豊一郎・西尾実(校訂)
岩波文庫480円+税/126ページ

◎世阿弥
1363年生まれ。室町時代初期の大和猿楽師。父の観阿弥とともに猿楽(現在の能)を大成し、多くの書を残す。彼らの能は観世流として現代に受け継がれている。『風姿花伝』は1400年ごろに成立したと言われている。1443年没。


CEO’s BOOKSHELF 鈴木貴子 エステー取締役 兼 代表執行役社長(COO)
(中略)「学生時代に何気なく読んだこの本を再び手にしたのは、2013年春のことでした。当時の私は、社長に就任したばかり。現エステー会長で叔父の鈴木喬のように、正確で迅速な経営判断が求められると同時に、取引先や社員、株主、アナリストなど、多くの人に向けてスピーチする機会が、劇的に多くなったのです。会社の代表としての発言には、大きな責任が伴います。重圧を感じた瞬間でした。

 そのとき、ふと思い出したのが「心より心に伝わる花なれば、風姿花伝と名 付く」という言葉。それは、「伝統を継ぐものであっても、自分で工夫し、技を自分のものとして身につけなければならない。自分で得た技こそが花であり、心から心へと伝わっていくものである」という風姿花伝の一節でした

 素晴らしいスピーチを考える前に、自分らしく、自らの心を伝えられるよう、 成長しなさいと、世阿弥に言われたような気がしました。

 さらに世阿弥は、新しいことを学び、新たな引き出しを作り続けていくことが、人としての成長だと教えてくれました。『風姿花伝』には、さまざまな役を演じるときの心得も書かれているのですが、例えば、女性を演じる際の注意点に「外見が見苦しいのは、見どころなし」という言葉があります。女性が女性らしく立ち居振る舞うことが大切という、世阿弥からの想いが込められています。
また、上司として、社員を叱らなくてはならないときは、鬼を演じる役者の心得である「強く怒る時は、柔らかな心を忘るべからず」という言葉を、心に留め置くようにしています。実践するようになってからは、叱られた社員の受け止め方も、柔軟になったように感じています。(中略)

 本書は、自分らしい花を咲かせ続けるための、日本最古のパフォーマンスアートの美学書です。

鈴木貴子

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