仕事柄よく移動する私は、どこかに向かうときは必ず目的地に到着したい人間だ。旅行情報誌編集者として、航空会社からの予約振替の補償金で生計を立てている人について記事を書いたこともある。だがその裏で、予約を放棄して金券を受け取る人をひっそりと見下していた。私にはそんなことできない──。
デルタ航空は先週、本拠地アトランタを襲った前代未聞の嵐の影響で、何千便ものフライト欠航と大規模な運航遅延に見舞われた。私は夫と娘の家族3人で金曜の朝にニューヨークのラガーディア空港からフロリダ行きの便に乗る予定だったが、悪天候は過ぎてなんとか災難は免れたと思っていた。
だが何時間もの遅延の末、デルタ航空は、定員を超過した私たちの便で、補償金と引き換えに予約振替に応じてくれる乗客を募り始めた。キャンセル待ちの乗客はなんと60人! ただ私は、家族でフロリダ州フォートローダーデールの親戚に会いに行く予定だったので、振り替えには絶対に応じないつもりだった。
補償金の額が予約1席に対しギフトカード900ドル分に達したとき、夫から考え直すよう説得された。旅行を延期するには安すぎると感じたが、私たちの予定は融通が利くものだったので、考えてみてもいいと言った。夫が搭乗口の係員とかけ合って、1席1500ドルへの値上げを試みたところ、1350ドルを提示された。
他のいら立った乗客は係員に対して怒鳴り、予定が台無しになったことを嘆いていた。不思議なことに、航空会社から4050ドルの謝礼を提示されると、飛行機に乗れなくてもあまり悪い気はしない。空港近くのホテルに無料で宿泊し、ただで夕食を楽しむこともできたが、空港から20分の距離に住んでいた私たちは、予約を土曜の便に振り替え、アメリカンエキスプレスの高額ギフトカードを手に帰宅した。