「ビットコインとは対照的」 R3CEVが目指すブロックチェーンの未来

デイビッド・ラター、R3CEV創業者

“インターネット”と同様に社会的に大きなインパクトを与える新技術・ブロックチェーン。その旗手たちが描く「革命後の世界」の姿とは。


「ブロックチェーンは発展の初期段階です。その中で我々は、グローバルファイナンスにおける“参加者間の信用で構築された世界”を意識し、世界規模でプロジェクトを推し進めています」

既存の金融サービスは、国が発行する通貨や銀行が管理する預金口座に対する“信用”の上で成り立っている。これに対し、ブロックチェーンは、信用付与の仕組みをシステム内に組み込むことで、もし当事者が不正行為を行っても期待通りの機能を果たす。

このように、本来的には“第三者への信用を必要としない世界”であるブロックチェーンにおいて、R3CEV社CEOのデイビッド・ラターは、なぜ“信用構築”を意識しているのか。そこには、自社内やパートナー間だけでブロックチェーンを活用すれば権限管理やスペックを柔軟に調整できる─、というメリットを享受したい金融機関の思惑がある。

「私たちが追求するのは、中央当局が関与していく道になります。ビットコインやイーサリアムとは対照的です」

16年11月に開始したシンガポール金融通貨庁主導の国際送金実証実験において、R3CEV社は日米欧9行やシンガポール取引所と共に参画している。次世代を担う資金決済システムに対し、当初から金融当局と直接的に関わりを持つことで、金融機関の一般利用者へ提供するまでのスピード感に拍車をかけていく。

「全てが、我々の予想を超える勢いで拡大しています。いずれは大手金融機関もブロックチェーンに関心を抱くと考えていましたが、ここまで急速に広がるとは当初想定していませんでした」

15年9月、R3CEV社が主導し、大手金融機関9行が手を組む形で、ブロックチェーン活用による金融市場の効率化へ取り組むコンソーシアム「R3」は始動した。同年12月には参加機関が42行へと拡大、ゴールドマン・サックスなど数行が途中脱退しながらも、17年1月時点で70行以上が参画する世界最大級のワーキンググループとなっている。日本の三大メガバンクも参加、16年7月には、みずほフィナンシャルグループとSBIホールディングスが実証実験を共同で開始している。

現在、R3CEV社は世界中で約100名の人材を抱え、ビットコインのコア開発者マイク・ハーンも加わる。

R3はこのほど、分散型台帳プラットフォーム「Corda」をオープンソース化した。金融機関向けに重きを置いているが、ここで業界の標準仕様が定まれば、ブロックチェーン活用のさらなる加速も期待できる。「ブロックチェーンやグローバルファイナンスの未来のために、我々はオペレーティングシステムを構築します。スマホゲーム開発のように、ビジネス向けのアプリケーション基盤やツールを整えることで、全てをシンプルにしていきます」

前述のシンガポールの事例において、ブロックチェーンの特性がマネーロンダリング監視やハッキング防止に生かされる新たな資金取引システムは、我々に大きな恩恵をもたらすだろう。


デイビッド・ラター◎30年近く、ウォールストリート大手金融機関とのビジネスを経験後、2013年にR3CEV創業。エスタブリッシュメントと連携し、次世代金融インフラ構築を推進している。

写真 = 松井康一郎、平岩亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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