ビジネス

2015.01.15

トヨタ方式やM&Aで進化する「ギター弦の名門」




コストの低い成長国市場へ製造拠点を移す企業が多いなか、数々の世界的なミュージシャンを顧客に抱える老舗の弦メーカーは、「イノベーション」を通じて、伝統と雇用を守ろうとしている。

弦楽器の弦メーカー「ダダリオ」は、 ニューヨーク市から東に1時間の所に工場がある。2万2,000m²の工場内では、数百人の従業員が交替勤務のシフトを組み、せわしなくギターやバイオリン、ギリシャの楽器ブズーキやトルコの楽器ウードの弦を作っている。その数、毎日70万本ほど。(中略)轟音を立てながら動く製造装置は、部外者には非公開だ。その設計は、企業秘密である。

 祖父の創業した会社でCEOを務めるジム・ダダリオ(65)が、誇らしげに工場内を検分する。彼は同社を、兄のジョン・ジュニア(71)とふたりで築きあげた。
「祖父の工房を思えば、会社をここまで大きく育てられたのは予想外でした」(中略)

弦メーカーの「イノベーション」とは?
2013年、ダダリオは1億6,900万ドル(約170億円)の楽器付属品を売り上げ、推定1,200万ドルの利益を上げた。この10年間は、年平均6.2%の割合で成長している。同社のギター弦の愛用者には、レニー・クラヴィッツやピーター・フランプトンといった有名ミュージシャンがいる。

 いまでは、ドラムのスティックや管楽器のリードにもビジネス領域を広げ、売り上げの半分は国外からである。ダダリオは、地味ながらも重要なイノベーションをいくつも重ねて、その地位を築き上げてきたのだ。

 ダダリオ一族は、17世紀にはすでにイタリアのサッレで弦を作っていた。町が1905年に地震で破壊されると、彼らはアメリカへ移住した。(中略)ナイロンのような、当時は新しかった合成素材の利点に気づいたのは、チャールズの息子で2代目CEOのジョン・シニアだった。

 彼は56年、マーティンやグレッチ、ギルド、ディアンジェリコといったギターメーカー向けに鋼鉄製の弦を製造するようになると、弦を円筒形ではなく六角形にした。それにより、周囲に巻くワイヤーがしっかりと保持され、安定した弦になったのだ。彼は鋼鉄線にニッ ケルメッキを施したが、これは今日にまで業界の標準として受け継がれている。70年代に入ると、ジョン・ジュニアとジムが経営を引き継いだ。代替わりした最初の年、ダダリオの従業員は20人ほどで、売り上げは100万ドル程度だった。しかし、「今年は、1日だけで270万ドルも稼いだ日がある」とジムは明かす。

 事業拡張を続けた30年以上の間、兄弟は絶え間なく製造装置の改善を行った。 「大きなイノベーションがあるたびに、機械類をすべて新しいものに変えました」と、ジムは説明する。たとえば、巻き取り機に高性能のモーターを搭載し、人的エラーを一掃した。あるいはデジタル制御を導入し、ワイヤーの張力を10分の1ポンド以内の精度で調整できるようにした。07年には「トヨタ生産方式」を採用し、不良品の発生率を3%から0.2%に減らしている。

「マーティンやフェンダーのような競合企業は、メキシコでコストの安い弦を作っています」と、ジムは言う。「私たちは、低コストで最高品質の弦をつくるメーカーになる必要があったのです」(以下略、)

カーステン・ストラウス

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