「エンターテインメントタクシー」で街を面白く[小山薫堂の妄想浪費 vol.20]

ジャズタクシーもグルメタクシーもカメラタクシーも、安全運転でお客様をお届けします!(イラストレーション=サイトウユウスケ)

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第20回

他国を訪れて最初に触れるのは、その国の交通事情。ドライバーの運転が国の印象を決めるかもしれないので、皆さん、これからも安全運転で!


首都高速道路の事故削減を目指して、2007年8月から「東京スマートドライバー」というキャンペーンが行われている。僕が発起人となり、首都高速道路と在京の民放ラジオ5局が共同で始めたプロジェクトだ。

首都高での交通事故のいちばんの原因はスピードの出し過ぎではなく、料金所や合流地点などで双方が譲り合わずに起きた接触事故である。そこで僕は考えた。「交通規制や取り締まりといった強制的なキャンペーンではなく、ドライバーの思いやりの力で交通事故を減らしましょう」と。

ちなみに06年度の首都高上での交通事故は、約1万2000件。その影響で起こる交通渋滞は、年間で東京とニューヨークを往復するほどの距離に匹敵する。また、「首都高上で一件の事故を起こすと、渋滞が約2kmできて、CO2の量が3トン増える」という試算も出ていた。つまり、安全運転は地球環境にも貢献するのである。

プロジェクトシンボルにピンク色のチェッカーフラッグが用いられているのは、クリエイティブ・ディレクターの水野学さんによるアイデア。

曰く「モータースポーツでは一番早くゴールした人が黒のチェッカーフラッグで迎えられるけれど、一般のドライバーは安全に家へ帰ることがゴールだから、ピンクにしよう。ピンクは人を優しい気持ちにする色。ピンクの囚人服に替えた途端、脱走者が減ったという話もある」とのこと。

ありがたいことに、このスマートドライバーの考え方に賛同してくれた地方も多く、キャンペーンが全国各地へと広がっている。

かくいう僕自身も車の運転が大好きで、以前はなかなか荒っぽい運転をしていた。でも、発起人になってからは、安全運転になった。そこであらためて気がついたことがある。

たとえば北京の空港から街中までタクシーに乗ると、クラクションはあちこちで鳴らされるし、運転もめちゃくちゃ荒い。どこもかしこもカオスだ。ある新聞に、「日本では車線は『守るべきルール』だが、中国では『目安』に過ぎない」と書かれていたが、実際そのカオスを見ると「中国人は自己主張が強いなあ」と思ってしまう。

これを逆手にとって、もし日本人の運転が常に思いやりと譲り合いの精神にあふれていたらどうだろう。成田空港や羽田空港からタクシーやバスで都内へ向かう海外からのお客様は、「日本人って素敵ね」という印象を持つのではないだろうか。“交通”というのは都市の顔であり、国民の気質すら表してしまうのだ。

池の波紋のように

京都にヤサカタクシーという会社がある。通常のシンボルマークは三つ葉のクローバーなのだが、約1500台中4台だけ、四つ葉のクローバーがあって、乗ると記念の乗車券がもらえる。

導入は02年、雨に濡れた葉が天井灯にくっついて、偶然四つ葉になったタクシーに乗った乗客に幸運が続いたため、遊び心で始めたらしい。いまでも「就職が決まった」「結婚が決まった」「宝くじが当たった」など、幸運を呼ぶタクシーとして、親しまれているそうだ。

しかも最近、さらに発展した「二葉」もできて、これは2台しか走っていない。僕はそのヤサカの二葉に昨年末、偶然乗った。降りるときに「お客さん、これ二葉なんですよ」と声をかけられた。領収書を上賀茂神社に持っていくと記念品をもらえるという。

でも、僕は領収書に印刷された二葉マークのほうが貴重な気がして、換えていない。こういうちょっとした遊び心が、タクシー会社の名前を覚えてしまったり、イメージを良くしたりするのだから、侮れないと思う。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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