ビジネス

2017.03.29 08:00

世界的企業は今、なぜ「デザインx経営」なのか?

Kouzou Sakai=イラストレーション

『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』の著者・佐宗邦威が、これからの経営に必要な新たな動きを3社への取材を通して読み解く。

「デザイン×経営」という新しいフェーズへの地殻変動が起きています。この変化は「デジタル・エコノミー」に対応するため、大企業が組織のカタチや働き方を根本的につくりなおそうとしている動きの一環と言えます。さらに、私がテーマとして掲げている「デザイン、ビジネス、エンジニアリングの全てを統合した組織改革(=Organization Change)」の流れとも言えるでしょう。

私はお茶の老舗企業のリブランディングから宇宙関連企業の組織開発まで幅広くデザインコンサルティングプロジェクトに携わっています。現在、従来の新規事業部門や企画部門、デザイン部門からの製品・サービスに関するプロジェクトに加え、経営者もしくは経営企画部門によるビジョンデザイン、イノベーション戦略デザイン、組織デザインといった、“デザイン×経営”とも呼べる新しいタイプの依頼が急増してきています。

そもそも、デザインと経営というテーマは、新しいものではありません。1990〜2000年代前半にかけては、「ブランド作り」のために経営者がデザイナーと直接働くことが求められた時代がありました(狭義のデザイン)。00年代後半に入ると、デザインの定義が広義に捉えられ、イノベーションを生み出す方法として広がっていきました。その代表的な事例が、デザイン思考で知られるデザインコンサルティングファームのIDEOなどの存在です。

しかし、現在、起きている変化は、これまでとはまったく「質が違う」と考えます。デザインを「組織全体の文化を変え、経営戦略として変革を起こすための武器」として活用するという動きだからです。デザイン思考が「プロセス」を生む手段から、「戦略」を実現する組織戦略のOS(基本ソフト)へと進化したと言えるでしょう。

こうした背景には、ネットワーク型のデジタル・エコノミーにおける次の4つの法則を踏まえる必要があるでしょう。(1)予測不可能性(初期条件の少しの違いが大きな差を生み、変化の幅が大きくなるため事前予測が不可能である)、(2)ハブや第一人者の総取り(ネットワークが分散すればするほど情報やリソースは偏在し、ハブにはあらゆるリソースが集まってくる)、(3)ネットワーク外部性(参加者が増えれば増えるほど価値が増大する)、(4)活性化した場に集う(活性化された試行回数が多いネットワークにはさらにリソースが集う)─。

世界的企業に学ぶ3つの方法論

デジタル・エコノミー時代に対応した組織文化変革の象徴とも言えるのが、米IBMです。12年にCEOに就任したバージニア・ロメッティにより、1000人以上のデザイナーを世界中で採用し、23拠点のデザインスタジオを設けました。伝統的なITベンダーのIBMがいまや世界最大のデザイン会社になったのです。

「デザイナーはレスポンシブでアジャイル(俊敏な)がDNAです。よって、デザイナーが重要な地位を担うことで、企業はよりアジャイルになり、ユーザーにフォーカスするようになります」

米IBM史上はじめてデザイナーとして理事に就任したダグ・パウエルはそう話します。同社は12年から、エンタープライズサービスがクラウドへ移行する背景もあり、「自社のソリューションを売るスタイル」から「顧客と一緒にスピーディーに顧客体験をデザインする」会社へと変貌を遂げようとしています。

製品部門のデザイナーを土台に、社内の様々な部門や顧客との「共創を促すファシリテーター」としてのデザイナーを戦略的に増やしてきました。エンジニアとデザイナーの比率を13年の1:33から1:8にすることを目標に、すでに3年で1000人以上のデザイナーを新たに採用しています。

「100年以上存続できているのは“変革への寛容さ”があり、忍耐強く、そして回復力の強い企業だから。その強みを感じます」(パウエル)

IBMではロメッティCEOによるサポートもあり、重役1000人以上がデザイン思考ワークショップを体験する日を設けました。また、独自のデザインプロセスとして、顧客と共創型のデザイン思考とリーンスタートアップを組み合わせたプログラムを開発し、自社のトレーナーを育成しています。

特に印象的だったのは、10年後に顧客、自社の半数を占めるデジタルネイティブ世代にとっての働きやすい環境の提供を目指すという思想。人工知能(AI)「ワトソン」などのプラットフォームを持ち、その価値を高めるために顧客や人材を取り込む手段として、働く体験自体をリデザインしようとしています。

「人々は変化していて、働き方も急速に変化しているため、人の“新しい見方”が必要です。そして、人を理解し、人のための体験を作ることにたけているのはデザイナーですから」(パウエル)
次ページ > 独ソフトウェア大手SAPの場合

佐宗邦威 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事