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2017.03.28

KDDIによる「スタートアップとの共創」継続の理由

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ベンチャー育成・支援プログラム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」、グローバル・ブレインと共同で設立したCVCファンド「KDDI Open Innovation Fund」(1号・2号の運用総額100億円)、レイターステージにおける資本業務提携など、多様な打ち手を通じてスタートアップとの共創を続けるKDDI。その理由を初代 ∞ Labo長であり、現・新規ビジネス推進本部長の塚田俊文に話を聞いた。

─スタートアップとの共創基盤として2011年にKDDI ∞ Labo、12年にKDDI Open Innovation Fundを立ち上げた経緯は。

塚田:「頑張るエンジニアを応援したい」、そして「日本発のサービスをグローバルに出したい」という思いが、社長の田中孝司をはじめ、KDDIグループの共通認識になっています。

前者についてはKDDI ∞ LaboやKDDI Open Innovation Fundを通じて着々と取り組んでいますが、後者についてはまだ実現できていません。志高く世界に打って出て、世の中を変えるようなサービスをベンチャーの皆様と一緒に手掛けていく、我々としてはそこを目指したい。

モバイルインターネットの世界は、まさにベンチャーの皆様と一緒に作り上げてきた領域です。

最初は00年頃の壁紙や着メロに始まり、10年ほど取り組んできました。06年のグリーとのモバイルSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「EZ GREE」の展開や、09年のベンチャーキャピタル「IVP Fund」への出資など、ベンチャー界隈との付き合いを広げていきました。その過程で「従来のパートナー関係に終始していないか、一緒にできることがもっとあるのではないか」という思いが強まり、11年にKDDI ∞ Laboが始まったのです。

その流れの中で、自らファンドを持つ必要性も感じ、12年に1号、14年に2号を設立しました。ただ、ファンド運営経験がなかったため、ハンズオン投資で実績を持つグローバル・ブレインと組ませていただいた。既に我々は、出資したグリーが急成長していく様を間近で見たので、あのような共創を再び手掛けられるのでは、という期待値が強くあります。

─KDDI ∞ Laboのパートナー企業は34社に達し、現在進行中の第11期プログラムでは韓国企業を初めて採択した。最大の転換点となった取り組みは。

塚田:15年1月の第7期です。この時、三井物産、セブン&アイ、コクヨ、テレビ朝日、プラスなど非IT系大企業13社のパートナー企業を迎え、連合を組みました。空間づくりや流通チャネルなど、ベンチャー企業は大手各社が持つアセットやノウハウを活用したサービス開発が可能となり、これを機に16年2月の第9期でハードウェアプログラムを強化するなど、その後のベンチャー支援をより確かなものにできました。

この背景として、KDDI ∞ Labo初期の参加チームにはSNSを活かしたサービスが多く、我々としてもベンチャーに対して適切なアドバイスを行えていましたが、それが徐々に難しくなっていたのです。

16年9月にデモ・デイが開催された第10期においても、IoT分野、農業分野、スポーツ分野、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)分野、物流分野、宇宙分野と、参加チームの事業領域が非常に幅広いです。我々としては、こういった専門分野を得意とするパートナー企業様と一緒になり、皆でベンチャーを盛り上げていきたい。

─11年から5年以上、一連のイノベーションスキームを継続してきた。その秘訣は。

塚田:経営層の理解、そして現場との一体感です。社長の田中、バリュー事業本部長である副社長の高橋誠らの強い思いがある一方で、現場からも自発的に「一緒になってやりたい」という声を上げたのです。

結果的に、KDDIグループ内の研究所、法人向けビジネスソリューション部、個人向け商品開発部、広報部など、幅広い部署から協力者が集まりました。あまり堅苦しくなく、リターンを大きく求めず、その上で新しいことにチャレンジしていく。それらをチーム一丸となって手掛けられていることが、これまで長続きしている要因だと思います。

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塚田俊文◎KDDI理事・バリュー事業本部新規ビジネス推進本部長。1986年第二電電(DDI)入社。2016年4月より現職。

土橋克寿=文、セドリック・ディラドリアン=写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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