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2017.03.25

「企業に眠る人材を覚醒させる」 三井不動産の挑戦とは

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2012年に策定したグループ中期経営計画で“イノベーション”を合言葉に掲げた三井不動産が、ベンチャー企業との共創を本格化させている。

15年4月に「ベンチャー共創事業部」を設立、15年12月にはCVCファンド「31VENTURES Global Innovation Fund 1号」(総額50億円)をグローバル・ブレインと共同で立ち上げた。共創にかける思いについて、同社で20年以上ベンチャー支援に関わってきた取締役専務執行役員・北原義一に話を聞いた。

─なぜ、ベンチャーとの共創に注力しているのでしょうか。

北原:まず、三井不動産自体がそもそもベンチャー的DNAを持っている会社です。我々の成り立ちとして、「三井合名会社」の、不動産を管理する不動産課が1941年に独立しているが、設立当初の事業規模は非常に小さいものでした。そのため、マーケットの中で常に新しいことに取り組んできた経緯があり、もともとベンチャースピリットを持つ組織なのです。

私自身、約20年前にベンチャーサポートセンター(現31VENTURES 幕張)を立ち上げ、その後も様々な新規事業を手掛けてきました。その経験を教訓として、挑戦できる雰囲気が浸透したプラットフォームを作りたいと強く思うようになったのです。

─どのような取り組みを行ってきたのでしょうか。

北原:経営資源たるヒト・モノ・カネの中で、我々は四半世紀以上前からモノの部分、つまり“場の提供”を積み重ねてきました。ベンチャーオフィス運営においても、日本最大級コワーキングスペース「柏の葉オープンイノベーションラボ(31VENTURES KOIL)」や、大企業と起業家を結ぶコラボレーション創造施設「31VENTURES Clipニホンバシ」など、オフィス提供やサポート体制を拡充しています。

三井不動産の持つあらゆる経営資源を起業家の皆様へ提供していく─、その内の打ち手の一つとしてCVCも立ち上げました。資金、人材、情報、商圏を全て提供することで、商業化や事業化を加速させていく考えです。三井不動産グループの社員数は2 万人に達するので、今後の発展形として、手を挙げた社員がベンチャー企業の中へ入っていくことも考えられます。

─多様なプレイヤーを巻き込んでいる理由は。

北原:大企業の中に眠っている人材、ノウハウ、知見をもう一度覚醒させたいと考えています。そのための必要条件が、挑戦したい大企業の社員の背中をスッと押せるような仕組みを、インフラ役である我々が作ることです。その一方で、十分条件は大企業側が変わることです。一念発起して自分で「いっちょやってやろう!」という気にさせるような雰囲気作りが、大企業側に必要だと思います。

三井不動産においても、経営陣皆がベンチャー共創の重要性を認識しつつ、主体的に動いているのは若手や中堅です。今回のCVCにおいても、グローバル・ブレインと組む話はトップダウンで決まったことではなく、三井不動産のベンチャー共創事業部(31VENTURES)が上層部に提案する流れでした。

─ドローンを使った建設業界向けソリューションを提供するイスラエル企業Dronomyや、協働ロボットを開発するライフロボティクスに投資してきた。今後、期待する領域は。

北原:社会的課題を解決する取り組みをしていきたい。私自身が感じている課題を挙げるなら、一つは経済格差の是正です。最先端技術を活用し、シェアリングエコノミーに代表されるようなビジネスが広まることで、格差の少ない世の中を作り出せると思っています。もう一つは地球資源の問題です。世界人口の増加が続く中、食料やエネルギーの課題を解決しようという気概を持つ起業家と、一緒に取り組んでいきたい。

三井不動産としても“次の基幹事業となる新しい価値”が生まれることを期待していますが、我々は第一に“日本から新しい産業を創造したい”と考えています。そのため、次の時代に向けて、日本経済を牽引していく機関車役を生み出すプラットフォームとなることが最大の目的です。ベンチャーと大企業をつなぐことで、日本の新産業創出のフックになっていきたいと思います。

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北原義一◎三井不動産・取締役専務執行役員。1980年、早稲田大学政治経済学部卒業後、三井不動産に入社。2013年より現職。

文=土橋克寿 写真=セドリック・ディラドリアン

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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