2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想される(図1)。いま世界で、労働市場のトランスフォーメーションにどう対応していくべきかが、大きな課題となっている。
私が、日本に伝えたいことは大きくふたつある。まずひとつは、教育、仕事、引退と進む従来の「3ステージの人生」モデルとは全く異なり、柔軟なマルチプルステージの考え方が求められていること。ふたつめは、お金などの有形資産に加えて、“Intangible Asset”─「見えない資産」が重要になってくる、ということだ。
過去200年のほとんどの期間、世界の平均寿命は右肩上がりで延びており、今後も延びると推定される。その上昇には健康、栄養、医療、教育、テクノロジー、所得といった多くの分野における状況の改善が影響しており、ひとつの理由では説明できない。私の著書『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)でも触れたが、日本は、この世界の国のさまざまなランキングの中でもとても重要な、平均寿命という基準で、世界のトップに立っている。
ただ、このデータを見た時、暗澹たる気持ちになる日本人は多いだろう。長く生きるようになれば、より多くのお金が必要だ。そうなると、所得から蓄えに回す割合を増やすか、働く年数を増やすしかない。しかし、私たちを取り巻く雇用環境のパラダイムシフトを正しく理解し、従来の常識であった「3ステージの人生」の考え方から抜け出すことができれば、こういった金銭面の厳しい現実を変えて、長寿の恩恵を受けることが可能になるのである。
私は著書の中で、ジャック、ジミー、ジェーンという異なる世代の3人の架空の人生のシナリオを考えた。
1945年生まれのジャックの世代は、平均寿命が70歳前後。3ステージの人生が最もうまく機能した世代だ。71年生まれのジミーは、現在40代半ば。この世代の平均寿命は85歳。3ステージの人生の社会規範に従い生きてきたが、それではうまくいかないことに気づきはじめている。1998年生まれのジェーンは100年以上生きる可能性が高い。この世代は、3ステージの生き方が自分たちの世代には通用しないことを知っていて、新しい人生の道を切り拓こうとしている。
高スキル労働市場をも脅かすテクノロジー
AIやロボティクスといった新しいテクノロジーの急速な進歩は、産業構造の転換の大きな要因のひとつとなり、私たちの雇用環境を大きく変えようとしている。ジェーンはこれから60年を超える勤続期間、働き口を確保することができるのだろうか?
79年からの職種ごとの雇用数の増減率を見てみると、低スキルの職と高スキルの職は増えているが、中スキルの職は減っている(図2)。これはアメリカのデータだが、高スキルの労働者もテクノロジーに「補完」されるのではなく代替されはじめており、長期的に増加傾向にあった高スキル労働者への需要が、2000年を境に減少に転じているのだ。