スラッシュ Slush/毎年初冬にヘルシンキで開催される北欧最大のテクノロジーカンファレンス。2016年は120カ国以上から約1万7500人の起業家、投資家、報道関係者が参加。今年3月29〜30日に東京ビッグサイトで第3回「Slush Tokyo」も開催予定。


その“熱い気持ち”は本物のようだ。昨年のスラッシュにはなんと2300人ものボランティアがかかわった。ほとんどが大学生や高校生たちだ。

会場でクローク係をしていた女子高生のイーダ・キヴィマキ(18)は、先輩に勧められ、初めて参加した。

「将来どんな仕事がしたいか、いろいろと考えるきっかけになった。以前はまったく考えてなかったけど、今や起業家になることも少し考えています」とはにかむ。

自分より少しだけ上の世代の先輩たちがステージなどで張り切る姿は、10代の若者たちにとって大きな刺激となっていることは間違いない。スラッシュではボランティアを通して、“起業家予備軍”を啓蒙するサイクルもできているように感じた。

会場にはさらに若い、小学生たちの姿もあった。聞くと、小学生のための起業プログラム「pikkuyrittajat(ピクウリタヤット)」の宣伝のために来ているという。昨年秋に国内200の小学校でカリキュラムの一環として導入され、すでに7000人の児童が参加したそうだ。

生徒たち(10〜12歳)は9週間(週1回の授業)でアイデアを考え、計画を練り、ピッチをして、商品やサービスを製作し、実際にモールなどで販売する。

「商品といっても子どもなので、ベイカリーやアクセサリー、文具などです。でも自分たちで何かを作って売るという体験が重要。『子どもでもトライすればできる』とわかって自信をつけられます」と、14年に同プログラムを立ち上げた元教師のヴィルピ・ウトリアイネンは話す。

アメリカンスクールに通うイェミナ(11)は、友達と一緒に石鹸やハンドクリームなどを作って150ユーロを売った、とうれしそうに教えてくれた。

「キャッチコピーの作り方とか、お客さんへの話し方とか知らなかったけど、今は少しわかるようになった。将来は自分の会社をもちたい」

小学校でここまで実践的な起業教育が導入されているのに驚かされる。スラッシュが始まって8年。今では東京や上海、シンガポールでも地元の有志により“地域版”イベントが開催されるようになった。

初日の開幕式でステージに立った創設者の一人、ピーター・ベスターバッカ(Rovioの元幹部として知られる)は、「スラッシュを始めたときはみんなから馬鹿にされた」と振り返った。

「ヘルシンキの冬は寒いし、暗いし、雪が積もっているだろと。でもまさにそこがポイントだった。世界のどこへ行っても、みんな『ここが第2のシリコンバレーになる』と言う。でも、シリコンバレーのマネをするのは独創性がない。だから僕らは最初からはっきりさせたかった。ここはシリコンバレーとは違う、もっと素晴らしい場所なんだ、と」

学生運動が生まれた大学へ

スラッシュをはじめとする起業ムーブメントを生んだアアルト大学とはどんなところなのか。ヘルシンキの郊外エスポーにあるメインキャンパスを訪ねた。

カフェテリアでは、多くの学生たちが昼食を食べながらプロダクトやビジネスの話に興じている。まるでビジネススクールか、スタートアップのブートキャンプに紛れ込んでしまったかのようだ。

じつはここアアルト大学は、政府が進める「イノベーション創出」のモデル校として、10年に設立された新しい大学だ。ヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ芸術大学という、いずれも創立100年以上の歴史をもつ由緒ある3大学を統合して誕生した。

つまるところ、「ビジネス」「テクノロジー」「アート」の専門大学を一つにまとめたわけだが、イノベーションの創出にはこの3分野の融合が欠かせないという判断は、スタートアップ経営者の多くが納得するものだろう。

同大学では「アアルト・ベンチャーズ・プログラム」をはじめ、起業やイノベーションに特化した複数の専門プログラムが提供されている。その成果はすさまじく、大学側によると「毎年70〜100社のスタートアップが誕生している」という。

文=増谷 康

 

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