ビジネス

2017.03.19

留守児童7千万人、高齢者2億人 ロボット都市・深センが挑む中国の課題解決

(Photo by Tim Graham/Getty Images)


高齢者が2億人、留守番児童が7000万人──。想像を絶する膨大な人数だ。深センなどでは、中国全土が抱える社会的課題を解決するひとつの手段、そして莫大な需要をビジネスに繋げるテクノロジーとして、家庭用ロボットの開発機運が高まっていることになる。

なお専門的な区分では、家庭用ロボットはサービスロボットの一種となる。サービスロボットとは、工場以外、つまり社会空間全般において、人間を支援する目的でつくられたロボットを指す。

日本では、掃除用ロボット「ルンバ」や、コミュニケーション用ロボット「ペッパー」がすでに有名だが、今後、医療、介護・福祉、ヘルスケア、警備、受付・案内、荷物搬送、移動・作業支援、食品加工、物流、検査・メンテナンス、調理・接客、教育、防災、趣味などあらゆる領域で、サービスロボットの活用が期待されている。ビジネスとしても、世界的に大きな期待が集まる分野だ。

なお中国は、サービスロボットへの関心が高まる以前にすでに、世界一の産業用ロボット市場になって久しい。そこには、産業用ロボットの普及=工場の自動化を、国策で進めてきたという背景がある。

中国国内では、2014年に約5万7000台、2015年に約6万8000台の産業用ロボットが、それぞれ販売された。2015年には、全世界的に合計約24万8000台が販売されたが、中国はそのうち36%を占める販売規模となった。また、2016年には前年を大きく上回り、販売台数は約8万台に迫るとの分析もある。

「中国政府および企業が産業用ロボットの導入、そして工場の自動化を推し進める背景のひとつに、人件費の高騰があります。給与が上がり、雇用主側が求める条件で人材を求めることが難しくなった。その埋め合わせを、ロボットで行おうとしているのです」(前出、畢秘書長)

中国が、安価で豊富な労働力に満ちた国であるという逸話は、すでに昔話だ。現在、急激な賃金上昇による人手不足が深刻な中国企業は多い。

約10年前、中国南部で始まった労働力不足は、近年、東部沿岸都市部を経て徐々に内陸まで拡散している。特に熟練技能工の不足は深刻。中国人力資源・社会保障部が公表したところによると、13年時点で中国製造業の熟練技能工の不足人員は400万人にのぼるとの統計もある。中国政府、そして企業からすれば、産業用ロボット導入は人件費の上昇を解決するカギとなる。

欧米や日本のメディアは、「中国がロボット大国化するのは、まだまだ難しい」とそれぞれに評価している。工場の自動化のものさしとなる「ロボット密度(労働者1万人あたりの産業用ロボット普及台数)」が、2015年の段階で36台と、まだまだ日本(305台)や先進諸国に遠く及ばないというのが、その根拠のひとつとなる。だが、産業用ロボットの普及、そして工場の自動化を、国策として着々と進める中国の潜在力は、計り知れない部分が大きい。

一方、サービスロボット分野では、世界的なリーディング企業がほとんど存在しない。中国と先進諸国の間に、ビジネス的なひらきもほぼない。そればかりか、深センの実情でも明らかなように、中国は圧倒的な人材の数、資金の量、そしてスピードで、新しいロボットビジネスの芽を育てはじめている。

現在、世界のロボット市場の売上高のほとんどを占めるのは、産業用ロボット分野だ。ただし、今後はサービスロボットの市場規模が拡大。十数年の間に産業用ロボットのそれを上回るという見解が、世界各国のシンクタンクや専門機関の予想で一致している。

世界の評価が覆され、ロボット大国・中国が現れる日──。それは、僕らが考えているよりも、ずっと近い未来のことかもしれない。

文=河鐘基

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