「共生」という思想を超えて[田坂広志の深き思索、静かな気づき]

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「共生」は英語にすれば“Living with Nature”、すなわち「自然と共に生きる」である。

では、日本には、どのような思想があるか。

「自然(じねん)」の思想である。

これは、仏教においては「自然法爾」などの言葉としても使われるが、その意味は、文字通り「自ずから然る」。これも英語に訳してみると、その意味が明瞭に見えてくる。

「自然(じねん)」とは英語にすれば“Living as Nature”、すなわち「自然として生きる」である。

なぜなら、欧米とは異なり、この日本という国においては、「自然」とは科学や技術によって「征服」する対象ではなかったからである。

日本人にとって、「自然」とは、我々「人間」を生み出し、育て、優しく見守る「大いなる母」のごとき存在であった。その背景には、この日本という国に永く伝えられてきた「自然崇拝」や「自然信仰」の宗教的思想がある。

この「共生」という思想と、「自然(じねん)」という思想。英語にすれば、わずか一文字、“with”と“as”の違いであるが、その意味の違いは、実は、極めて深い。

21世紀、直面する地球環境問題を解決していくために求められるのは、新たな科学や技術、法律や制度だけではない。真に求められるべきは、「自然」というものを、どう見つめるか。その「自然観」の根本的な転換である。

されば、この21世紀、日本という国が、人類全体の「自然観」の転換に果たすべき役割は、極めて大きい。

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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