ビットコインに次ぐ仮想通貨「イーサ」生みの親が語る、ブロックチェーンの理想

ヴィタリック・ブテリン(Photo by John Phillips/Getty Images for TechCrunch)

“インターネット”と同様に社会的に大きなインパクトを与える新技術・ブロックチェーン。その旗手たちが描く「革命後の世界」の姿とは。イーサリアムの生みの親にして天才ハッカー、ヴィタリック・ブテリンが語る。

「ブロックチェーンが実現する“分散している世界”は、経済をより公正かつ効率的にさせ、革新的なプロジェクトに取り組みやすくしていく。なぜなら、最も理にかなっているからです」

2016年末、日本を訪れたイーサリアムの生みの親ヴィタリック・ブテリンはそう語った。13年、当時19歳だったブテリンが構想を明らかにしたイーサリアムは、ブロックチェーンを活用した分散型アプリケーションを誰もが構築できるプラットフォームだ。今やビットコインに次ぐ流通量を持つ独自通貨「イーサ」を扱うが、通貨取引だけでなく、様々な取引を処理できるのが特徴である。

「人々が中央機関に依拠することなく、様々な情報を直接やり取りできるアプリケーションを持てることが重要です」

18カ月の開発期間を経て、15年7月に始動したイーサリアムに対し、既にIBMやマイクロソフトなどのテック企業が研究・提携を発表、高い関心を集めている。チューリング完全(どんな処理でも実行できる)なプログラミング言語を内蔵しているイーサリアムは、通常のプログラム言語で実現できるアプリならどんなものでも作り出せるため、その応用の幅が広い。

「インターネットは伝統産業をディスラプト(破壊)してきましたが、今ではブロックチェーンがネット産業をディスラプトしているのです」

もちろん、全てが順風満帆というわけではない。イーサリアムをベースとした自立分散型投資ファンド「The DAO」がハッキングされたことで、約52億円分の仮想通貨が不正送金の被害を受けた。

その後も、大量のアクセスを集中させ機能停止に追い込む「DoS攻撃」が続く中で、ハードフォーク(互換性のない新ルールを追加)を数回実施。この対応からハードフォーク前のチェーンを支持する層と、修正後のチェーンを支持する層─、イーサリアム内での分裂が起こっている。

「ハードフォークの判断に関しては間違いなかったと思います。私が繰り返し伝えているのが、イーサリアムはまだ実験・開発中のプラットフォームだということです。このテクノロジーが多様かつ大規模な使用事例へ対応するには、さらに大きく変化していかねばなりません」

ブロックチェーンは「全コンピュータの全取引をネットワーク処理しなければならない」という特性を持つため、拡張性の問題を度々指摘されてきた。ブテリン自身も、今後の焦点に「拡張性・プライバシー・効率化」をあげており、幅広い産業にブロックチェーンを導入できるだけの拡張性向上が期待されている。

最後に、正体不明のビットコイン発明者「サトシ・ナカモト」の話に触れると、自身のルーツを交えながら、こう話した。

「おそらく、彼は30代から50代の間で、実際に日本人だと思います。彼には、ただただ感謝しています。11年、私は父親から『ビットコインを知っているか』と尋ねられたのをきっかけに、そこからネット上での議論を通じて多くのことを学んできました。クラウドが、私のゴッドファーザーといえますね」


ヴィタリック・ブテリン◎1994年ロシア生まれ、カナダ育ち。2013年にイーサリアムの構想を明らかにし、15年にベータ版を公開。数学、暗号学、経済学、社会科学、政治学に広く関心を持つ。

文=土橋克寿 協力=スマートコントラクトジャパン

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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