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2017.03.01

糖尿病予防も夢じゃない? テクノロジーが開く「ペプチド」の可能性

Kateryna Kon / shutterstock

私たちが口にする食べ物には、膨大な数のペプチド(アミノ酸の結合体)が含まれている。例えばコップ1杯の牛乳には50億個のペプチドが含まれる。

ペプチドはたんぱく質構造の中に潜んでおり、解放されると、生体の特定の生理的調節機能に対して作用する「生理活性」という特性を持つようになる。

科学者たちは長い間、さまざまな病気の治療薬となり得るペプチドの特定に取り組んできた。しかし、ペプチドの特定には莫大な時間と資金が必要な上、その作業自体が非常に難しいという問題があった。

そこで、この問題を解決しようと立ち上がったのが、ノラ・カルディ博士だ。

アイルランド人の母とフランス人の父を持つカルディは、ダブリン大学トリニティ・カレッジで分子進化と生物情報工学を学び、博士号を取得。その後、特定の病気の治療に有効な分子を、食品の中から検出するソフトウェアを開発した。これまで何年もの時間と何百万ドルもの資金が必要だった作業を、わずかなコストで実現可能にするものだ。

カルディは2014年にニュリタス(Nuritas)を創業。「人工知能」と「DNAシークエンシング」という2つの最新テクノロジーを組み合わせ、様々な業界と提携しながら、世界の健康問題の解決に取り組んでいる。

同社は、EUから300万ドル(約3億4000万円)の助成金を獲得した。その独自の研究と世界初の「糖尿病予防治療」の商品化を支援するもので、今後18か月にわたって実施される臨床試験も助成の対象となる。規制当局の承認を受けることができれば、早ければ2020年にも、生理活性ペプチドを組み込んだ食品の販売を行えるようになる。

さらに、投資家からも強力なバックアップを受けている。セールスフォース・ドットコムの創業者兼CEOであるマーク・ベニオフや、起業家・投資家として知られるアリ・パルトビが主要投資家として名を連ねているほか、U2のボノやジ・エッジからの投資も取り付けた。

また2016年にはシンガポールの投資会社ニュー・プロテイン・キャピタルの主導で500万ドル(約5億6500万円)の資金調達に成功。近い将来、シリーズAラウンドでの資金調達も計画している。

ニュリタスは大規模なインフラ投資を行わないことで、急成長を遂げてきた。同社は革新的なテクノロジーを持つ一方で、画期的なビジネスモデルを持たないため、ほかの業界のリーダーと「競争」することよりも「提携」することに目を向けている。

こうしたやり方は、研究開発をアウトソースする傾向にある製薬業界にとって都合がよく、特許という大きな壁に直面し、新たなビジネスチャンスを模索しているヘルスケア企業のニーズにも合う。それゆえ、ニュリタスは、テック企業でありながらもヘルスケア企業としての一面を持っている。

同社はわずか1年間で数百ものペプチドを発見し、特許を取得している。このうち血糖値の調整機能がある2つのペプチドは、糖尿病予防に役立てるため開発が進められている。

最大の難関は、実際に効果があるだけでなく、美味しく摂取できる分子を見つけることだ。また、食品に加える際にペプチドが上手く混ざるようにすることや、加熱しても問題ないかなどを確認する必要もある。

食品がもたらす健康効果について、消費者はますます敏感になりつつある。しかし、残念なことに、こうした意識の変化が彼らの食習慣を劇的に変えるとは限らない。だからこそ、慢性疾患と闘うためにはこうしたペプチドを含む食品が必要になってくるのだ。

ニュリタスが開発を進めているペプチド食品は、人々の健康に大きな効果をもたらすことになるだろう。

編集=森 美歩

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