ビジネス

2017.02.16

音楽と新聞、スポティファイとNYタイムズ提携に浮かぶ「暗雲」

Osugi / shutterstock.com

ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、デジタル版の「All Accessプラン」契約者向けにスポティファイの「プレミアムプラン」を無料で提供する取組みを開始した。「All Accessプラン」の通常料金は週当たり3.75ドルだが、スポティファイがセットになった新プランは初年度が週5ドルとかなりお得だ(スポティファイ・プレミアムの通常月額料金は9.99ドル)。今回の提携から、新旧メディア双方の思惑と課題が見て取れる。

両社の業界における立ち位置は大きく異なる。スポティファイは、ストリーミングで音楽業界を変革し、大手レコード会社から出資を受けることに成功している。これに対し、NYTは紙メディアからデジタルメディアへの転換に悪戦苦闘している。

両社の差は、有料会員数にも表れている。スポティファイは、1億人のユーザーのうち4,300万人が有料会員だ。一方、NYTは、公式サイトの月間ユニークビジター数こそ7,810万人いるが、有料会員はわずか300万人で、このうちデジタル版限定の会員は190万人に過ぎない。

それでも、今回のパートナーシップはスポティファイにとっても大きなメリットが期待できる。同社は昨年動画配信に参入し、アップルミュージックやネットフリックスに勝負を挑んでいる。これまでに「Deconstructing」や「Clarify」といった政治色の強いオリジナルコンテンツを制作しており、NYTの読者層とも合うかもしれない。また、大手メディアのNYTとの提携は、投資家への有力な説得材料にもなる。

一方のNYTは、「デジタルファースト」への転換を推進しており、2020年までにデジタル版だけで8億ドルを稼ぎ出す目標を掲げている。同社は、トランプ政権批判によってユーザー数を増やし、2016年第4四半期のデジタル会員純増数は27万6,000人と、2011年以来最大の伸びを記録した。同社はスポティファイとの提携により成長をさらに加速させたい考えだ。

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しかし、現段階での両社の取組みは中途半端だ。スポティファイは、2016年1月のポッドキャスト配信開始以来、Recodeの「Recode Media with Peter Kafka」等のパブリッシャー制作のコンテンツを多く提供している。しかし、NYTのポッドキャストはカタログに一つも掲載されていない。

音楽コンテンツに関しては、NYTが作成した25曲のプレイリストが人気を博し、フォロワー数は5,100人を超えている。しかし、NYTの音楽評論家が週替わりでプレイリストを提供する「nytarts」など、3つのアカウントの合計フォロワー数は200人にも届いていない。
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編集=上田裕資

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