ジョイ・ヴィラ (photo by Jon Kopaloff / gettyimages)

あなたがもし、無名のアーティストだったとしたなら、メディアに取り上げられるチャンスを探すはずだ。

今年のグラミー賞の授賞式で注目を浴びた、歌手のジョイ・ヴィラはまさしくそんな手段に出た。レッドカーペットに現れた彼女のドレスの前には「アメリカを偉大な国に」のスローガンが浮かび、後ろにはでかでかと「TRUMP」の文字があった。

ジョイ・ヴィラって一体誰、と思う読者も多いだろうが無理もない。3年間のキャリアを持つ彼女はこれまで全く無名で、メディアがその名前を取り上げるのはこれが初めてだ。

インスタグラムのプロフィールに彼女は「グラミー賞に“検討された”アーティストで、“完全菜食主義のボディビルダー賞”を受賞」と書いているが、グラミー候補になった事実はない。ヴィラの楽曲のスポティファイでの再生回数は、今回のグラミーの開催前は2万回以下で、ニールセンは2014年に発売されたアルバムの売上を「ゼロ枚」としていた。

しかし、2016年の大統領選挙後のアメリカは狂気に満ちた場所であり、実際にクレイジーなことが起こる。トランプのドレスをまとったヴィラの写真はソーシャルメディアを駆け巡り、日曜の夜には2,000名以上のトランプ支持者らがアルバムをダウンロードし、スポティファイでの再生回数も数万回に及んだ。

ビルボードによると当日のショーの終わり頃に、ヴィラのアルバムはアマゾンの有料アルバムチャートの1位に浮上。上昇率ではビヨンセやブルーノ・マーズ、レディー・ガガを上回ったという。

しかし、彼女の歌手としての人気が長続きするかどうかは疑問だ。アルバムはビルボード200に一瞬浮上したが、すぐに姿を消すだろう。

とは言うものの、SNSでは新たなフォロワーを獲得しており、メディアの関心を集めたのは事実だ。彼女のもとには今頃、リアリティ番組のプロデューサーからの電話が殺到し、次の戦略を練っているはずだ。トランプ支持を公言する女性シンガーで、完全ベジタリアンの女性ボディビルダーというキャラクターは、テレビにとって絶好の素材に違いない。

編集=上田裕資

 

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