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2017.02.14

「隠れ趣味」が一転「ドル箱」に 同人小説で成功をつかんだ作家たち

Wan Fahmy Redzuan / Shutterstock, Inc.

謎多き大富豪で企業経営者のエドワード・カレンをインタビューすることになったベラ・スワン。この出会いは彼女の人生を一変させ、暗い欲望の世界へといざなうことになる──。この話、皆さんもどこかで聞いたことがあるのではないだろうか。

それもそのはず、登場人物の名はステファニー・メイヤーの小説『トワイライト』シリーズと同じ。だが一方で、ストーリーはE・L・ジェイムズの官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のものだ。

世界中で大ヒットした『フィフティ・シェイズ』3部作だが、実はもともと、ジェイムズがトワイライトのキャラクター設定を借用して執筆し、2009年8月に『Master of the Universe』というタイトルでファンフィクションサイト「Fanfiction.net」上に発表した作品だった。

ファンフィクションとは、テレビドラマや小説などのファンがオリジナル作品のキャラクターを使って創作した作品のこと。日本では「二次創作」や「同人作品」と呼ばれる。

『フィフティ・シェイズ』は多くから「主婦向けポルノ」などとやゆされているものの、作者のジェイムズは同作品によって史上最大の商業的成功を収めたファンフィクション作家となった。『トワイライト』からの借用部分を削りタイトルを変えた同シリーズは、世界で7,000万部以上を売り上げている。

フォーブスの推計によると、ジェイムズは2013年、小説の大ヒットと映画化によって年収が9,500万ドル(約108億円)に達し、その年に世界で最も稼いだ作家となった。16年までの4年間の収入総額は1億3100万ドル(約149億円)に達している。先週からは映画化第2弾の『フィフティ・シェイズ・ダーカー(原題、日本公開日未定)』が各国で封切られており、収入は今後ますます増えるだろう。

『フィフティ・シェイズ』の成功を受け、出版業界では次なる大ヒットの可能性を秘めたファンフィクションを探すゴールドラッシュが起きた。だが、プロ転向したファンフィク作家はジェイムズの後にも先にも数多く存在する。

同人作品の先駆けは「恋に落ちたカーク船長とスポック」

ファンフィクション出版の歴史は、インターネットが誕生する以前にさかのぼる。現代ファンフィクションのルーツは、1970~80年代にSFテレビドラマ『スター・トレック(邦題:宇宙大作戦)』のファンらが始めたファンジン(同人誌)だった。(専門家の中には、同番組の2年前に放送が始まったスパイドラマ『The Man From U.N.C.L.E.(邦題:0011ナポレオン・ソロ)』がファンジンの起源だとする意見もある)

中でも、恋に落ちるカーク船長とスポックを描いたものは、同性同士の恋愛を題材にした「スラッシュ」と呼ばれるサブジャンルの先駆けとなった。このジャンル名は、カップルの名前を「Kirk/Spock」といった風にスラッシュ記号(/)で区切ったことが由来とされる。
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翻訳・編集=遠藤宗生

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