米警察「歩く監視カメラ」導入を加速 AI技術で容疑者特定へ

George Frey / gettyimages

米国では警官の行動を把握するために、ボディカメラの着用が広まっている。しかし、集まるデータ量は膨大で解析は難しい。そこで警察向けボディカメラの大手メーカーが、データ解析にAI(人工知能)を活用する試みが始動した。

スタンガンメーカーの最大手として知られるテイザー社 (Taser)は2月9日、画像認識アルゴリズムを開発するDextro社とフォッシル・グループ傘下のMisfitのコンピュータービジョン部門を買収すると発表した。買収額は明らかにされていない。

同社は新規で「Axon AI」という20名のプロジェクトチームを結成する。Axon AIは警察官が撮影した動画を自動的に解析し、検索可能にする。データはTaserのクラウドサービスEvidence.comで提供される。

「現状の仕組みでは警察は膨大な動画データを処理しきれなくなっている」とDextroの共同創業者でCEOのデビッド・ルアンは語る。Taserによると、同社のサーバーには5.2ペタバイト以上の動画データが保存されている。

TaserはDextroの買収でAIに精通した人材を手に入れた。2013年創業のDextroはディープラーニングの仕組みを取り入れ、画像認識や言語認識において非常に精度の高い分析を可能にしている。

Dextroはこれまでシードラウンドで170万ドル(約1億9,000万円)を調達しており、警察の動画データを解析するプロジェクトを進めていた。DextroのソフトウェアはAIにより、特定のオブジェクト(自動車や武器など)やロケーション(屋内か屋外か、あるいはビーチかなど)、そして警察活動の内容(職務質問や追跡など)を把握することが可能だ。

警察がボディカメラを導入する目的の一つは、何かが起きた場合の透明性の確保だ。しかし、この動きには一部から反発の声もあがっている。

警察による「監視社会」加速の懸念も

「私たちは警官のボディカメラが市民を監視する目的で利用されることには反対です。動画を保存して分析することには、プライバシー侵害の懸念があります」と、アメリカ自由人権協会のジェイ・スタンレーは述べている。

撮影された動画は、特定の問題が発生した場合にのみ利用すべきであり、撮影から6か月後には消去されるべきだとスタンレーは指摘する。また、全ての動画を検索可能にすると、その情報を警察がいつでも利用可能になる。さらに、最大の懸念は動画の解析に顔認識技術が導入されることだ。

「警察のボディカメラが、“移動型の監視カメラ”になることは非常に恐ろしい。テロ容疑者の写真を持った全ての警官が着用すれば、似た特徴を持つ人が全て職務質問を受けることになります。ほとんどのアメリカ人はそんな世界を望んでいません」

しかし、Taser社側は「顔認識技術は使用しておらず導入する予定もない」と主張している。むしろ自動的に顔をぼかす機能を開発中だとした。

現時点では警察がどのようにAIを捜査に活用するのかは定かではない。スタンレーは「警察はカメラをいつオンにするか、オフにすべきかといった明確なポリシーを定めていない。彼らが市民を監視する目的でボディカメラを使用することがあってはいけない」と述べている。

編集=上田裕資

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