農家の「しゃあない」をどうにかするために/クボタ 木股社長

クボタ代表取締役社長 木股昌俊 (photograph by Hironobu Sato)

労るような手つきだった。クボタのプロダクトカラーであるオレンジ色を基調にしたトラクタの模型を、社長の木股昌俊は包み込むように手のひらに載せた。ざっくばらんで飾らない語り口とは対照的な所作である。

高齢化にともなう離農者の増加と耕作放棄地の拡大……。岐路に立つ日本農業の現状を説明したあと、木股は冗談めかして笑った。

「えらいこっちゃ、と。我々は農家に支えられてきた企業なんです。だからこそ、農家の方々に恩返ししなければ、という思いが湧いてきた。私自身も農家の方にしごかれて、育てられましたから」

クボタの取り組みは、まさに農家への恩返しであり、農業の未来のためのチャレンジでもあるという。GPSを活用した自動運転の田植機やトラクタ、コンバインの開発。圃場ごとの米の収量やタンパク質含有量などのデータから、必要な肥料の量などを割り出し、ICTでつながった農機が作業を行うシステムの構築。鉄をコーティングした種もみを直接田んぼに蒔く新農法の提案。さらには、販路拡大のために米の輸出なども手がけている。

自動運転や田植えが必要ない農法が浸透すれば、農家は重労働からも解放される。極端にいえば、現場に誰もいなくても農業が可能になる。

また高齢の農家がどんどん田畑を手放していく半面、農地を集約した大規模経営が進んでいる。すると何が起こるか。経験がない就農者が増える。ベテランの農家のように勘や経験を頼りにできない。だが、新技術の導入で、新たな担い手でも安定した作物を効率よく安く生産できるようになる。日本農業そのものが変わる可能性を秘めているのだ。

「世の中の課題解決に結びつく製品をつくるのが、私たちのフレームワーク。私も、ものづくりとサービスで社会に貢献するんだという気持ちで入社したんです」と木股は外連味なく語る。

日本農業が直面する苦境は「兼業農家の息子で、実家の田んぼは耕作放棄地になってしまった」という木股自身にとっても切実な問題だった。しかし、それは彼だけではなかった。1977年にクボタに入社した木股が配属されたのは、トラクタを生産する茨城県の筑波工場。従業員の6割以上が兼業農家だった。従業員とはいえ、おいしいお米をつくってきたプロの農家だ。農機に対する反応はシビアで正直である。
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山川 徹 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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