事あるごとに読み返す「経営と人生の指南書」

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各界のCEOが読むべき一冊をすすめる本誌の連載「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、独立系投信会社「コモンズ投信」の伊井哲郎社長が事あるごとに読み返すという「人生でいちばん大切な三つのことば」を紹介する。


大峯千日回峰行という修行があることをご 存じでしょうか 。標高1,719メートルの山の頂からふもとまでの48キロメートルを、16時間かけて歩くこの修行は、1日で終わるのではなく、1年のうちの4カ月間、それを9年間も続けなければなりません。携えた水とおにぎりだけでは栄養を補えず、爪はボロボロ、血尿も出始めます。そして最後は、肉体と精神が分離してしまうような感覚に陥るそうです。

吉野・金峰山寺の1,300年を超える歴史の中で、たったふたりしか達成できていないということからも、修行の凄まじさを感じとることができます。

本書の著者である塩沼氏は、31歳の時にこの命がけの修行を満行し、現在は、仙台市の慈眼寺で住職を務めており、毎月2回行われる護摩祈祷と法話に は、多くの経営者が足を運んでいるそうです。実は、私もそのひとり。G1サミットでお話をうかがったことをきっかけに、数冊の著書があることを知り、折にふれ読み返しています。なぜ、事あるごとに塩沼氏の言葉を読 みたくなるのでしょうか。

人間誰しも、生きていれば迷うことばかりです。それは、相談できない内容を抱え、孤独といわれる経営者であればなおさらです。妬み、憎悪などさまざまな人間模様にも出くわします。

塩沼氏は、「天に向かって吐いた唾は、いずれ自分に返ってくる。悪い連鎖を断ち切るために、あえて厳しい環境に身をおき、自分自身を見つめ直す」ことが必要だと考え、修行に臨みました。その結果、「相手がよいか、悪いかではなく、すべては自分次第」なのだという答えを導き出しました。まわりの人に敬意を払い、思いやりを持って接した結果、思いがけない笑顔が返ってきたという経験をお持ちの方も多いでしょう。苦しい修行に耐えた彼の言葉は、その経験を腹落ちさせてくれるのです。

しかし、我を張らず、心のバランスを保ち続けることは簡単ではありません。塩沼氏は「日常が行である。行の中で、 常に自己を見つめ、最善を尽くすことが大事。その積み重ねが『成長』につな がる」と教えています。日常を「修行」 だと考えられれば、繰り返し実践し、頭 で覚えるのではなく、身についてくれるのでしょう。

優れた経営者には、夢を決して諦めず、情熱を持ち続けるという共通点があります。それは、私利私欲に走らず、目標に向かって日々努力し、修行してきたからこそ身についた「気持ちの強さ」な のでしょう。

コモンズ投信の使命は、今日よりもよい明日のため、世代を超えて進化し続ける企業に投資することです。良い企業、優れた経営者を見つけ出し、その想いを伝えていくことで、ゆっくりとしっかりとお金を育てる投資家を増やす。これが私の「行」だと確信しています。

title:人生でいちばん大切な 三つのことば
author:塩沼亮潤
data:春秋社 1,300円/176ページ




伊井哲郎(いい・てつろう)◎1984年、関西学院大学法学部政治学科卒業後、山一證券入社。97年メリルリンチ日本証券(現・三菱UFJメリルリンチPB証券) に立ち上げから参画2008年にコモンズ投信を創業し、代表取締役社長に就任。12年6月より最高運用責任者を兼務。現在に至る。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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