スラッシュはこうして「世界一クールな起業イベント」になった

マリアンヌ・ヴィックラ/Marianne Vikkula(24) スラッシュのCEO。2012年よりスラッシュにボランティアとして関わり、ファイナンスやパートナーシップ、セールス担当などを経て、16年夏より現職。アアルト大学の現役学生で、インダストリアル・エンジニアリング(経営工学)を専攻する。


――今年(16年)の参加者数は、1万7,000人を超えたようですね。

はい、でも参加者の数だけなら、もっと大きいスタートアップ・イベントがほかにもあります。「規模」は私たちの目標ではありません。実際、今年は参加者数の上限を意図的に1万7,000人程度にとどめました。世界最大のイベントになることは目指していません。それよりも、一番「意味のある」イベントになりたいと考えています。

――でも、なぜ数年のうちに急激に規模を拡大できたのでしょうか?

もちろん、偶然もあったかもしれません。でもまず何よりも「コミュニティ」の存在が大きいと思います。「みんなで一緒にやろう」というメンタリティーがあった。起業家から学生まで、みんな「変化」を起こすことを選んだのです。こういう動きはどこでも起こるものではありません。

そして次に、学生たちへの「信用」。スラッシュを運営するのは私たち学生です。学生は経験がないから、早くノウハウを学びたい。スラッシュを創設した起業家たち(現在はアドバイザー)は、サポートはしてくれましたが、究極のところ、私たちを信用してくれたんです。

あと、「できる」というポジティブな態度。小さな失敗は気にせず、障害を乗り越えて、早く前に進む。すべてに前向きなマインドセットを生み出すことができました。

それらのことがすべてつながって、うまく作用したのだと思います。

――なぜ起業家たちは学生を信用するようになったのでしょうか?

最初から信頼されたわけではなく、やりながら徐々に信用を勝ち取っていった感じです。おそらく(学生運動から生み出される)興奮やエネルギーを感じてもらえたのだと思います。実際、スラッシュに来ると、「変化」のフィーリングやムーブメントが感じられて、ほかのイベントとはぜんぜん違うことがわかります。

――具体的にどういった点が、ほかのイベントと違うのでしょうか?

やはりコミュニティの力が大きいです。スラッシュは学生たちによるNPOであり、非営利のメンタリティーがあります。

また私たちは、イベントの「経験」そのものに時間やリソースの多くを投資しています。2日間のイベントをたっぷり楽しめて、終わった後にも振り返りたくなるようなイベントにしたいと思っています。照明や製作など技術面だけでなく、エネルギーやフィーリング、興奮、顧客体験を重視しています。

――イベントが大きくなる過程で、さまざまな困難があったと想像します。どんなチャレンジがあったか、教えてください。

外から見たら毎年、順調に参加者が増えていったように見えるかもしれませんが、内部では本当にいろんなことがありました。たくさん失敗しましたし、あきらめかけたことも一度や二度ではありません。

たとえば14年、イベント開催の1カ月くらい前になっても、チケットの販売数が予測にまったく届いていませんでした。黒字化するためには、それまでの数カ月で売ったチケットの枚数と、前年のイベントで売ったチケットの枚数を足した数よりも多く売らないといけなかった。みんな殺気立ってましたね(笑)。
次ページ > なぜ毎年“寒い時期”に開催するのか?

Interview and Photographs by Yasushi Masutani

タグ:

連載

Next Stage of Slush

ForbesBrandVoice

人気記事