Eye Tribeは2011年に設立されたデンマークの企業。アプリ開発者向けに視線トラッキングAPIを提供しており、コンシューマー向けには199ドルのデバイス「Eye Tribe Tracker Pro」を発売済みだ。
視線トラッキング技術はVRの可能性を一気に拡大するポテンシャルを秘めている。ユーザーが画面のどの部分を見ているかを探知することで、映像のレンダリングにかかるパワーを効率的に運用し、より没入感の高いVR体験を可能にする。
さらに、視線を入力デバイスとして利用することも可能になる。アプリの操作や画面のスクロールを視線で行なうことも想定でき、Eye Tribe社はこの技術の活用例として、体が不自由な人がスクリーン上のキーボードを用い、メールやチャットを行なう事を挙げている。
また、フェイスブックがこの技術を広告ビジネスに活用することも予想できる。ユーザーがどの部分を何秒間見ていたかを記録し、個人の属性を判別するのだ。視線トラッキング技術は一般的には、ユーザーインターフェイスを改善するものとして認識されているが、フェイスブック側としては広告運用を効率的に行なうテクノロジーとしてメリットは大きい。
グーグルも「視線トラッキング」に関心
この領域ではグーグルも昨年10月にEyefluenceというスタートアップ企業を買収しており、視線トラッキングはVR分野で一気に活用が進むことが見込まれる。ユーザー側はこれまで以上にエキサイティングなVR体験が可能になるが、企業側としてはユーザーのプライバシーをさらなる広告収入に結びつける手法が増えることになる。
アマゾンのエコーやグーグルホームといったデバイスは既に、家庭内の物音の全てに聞き耳を立てているが、視線トラッキング技術がその状況をさらに一歩進めることになる。無料のスマートグラスが提供されることと引き換えに、何をどの程度見ているかのデータを企業に明け渡す利用者が増えることも予測できる。
一方で、このテクノロジーが新たな法的議論を引き起こす懸念もある。昨年、米国アーカンソー州で起きた殺人事件の証拠として検察側はアマゾンに対し、エコーが録音した家庭内の音声の提出を求めているが、アマゾン側は現時点でこれに応じていない。ユーザー側としては日常生活を便利にするために導入したテクノロジーが、逆に自分を追い詰めるような皮肉な事態も起こりうるのだ。