「目標が生き方を変えると実感しています」と、話すのは三浦雄一郎。84歳のプロスキーヤー、冒険家として知られる。「エベレスト挑戦にしても、マイナスからのスタートでした。大きなケガや病気に見舞われましたが、そのたびに復活してエベレストに登頂した。諦めなかったから、健康に戻れた。といっても、実践したのが、模範的な健康法だとは言えませんが」。
遡ること、20年。冒険家としての一線を退いていた三浦は暴飲暴食、運動不足という不摂生な生活を送っていた。日本全国を飛び回り、年間150回ほどの講演をこなして、夜の宴席では各地の旬の物に舌鼓を打つ。身長164cmにもかかわらず、体重約90kgの完全な肥満体。ベストの状態から20kgも体重をオーバー。さらに1997年にテレビ番組で訪れた標高5,300mのエベレストのベースキャンプではひどい高山病にかかってしまう。高峰に幾度も登頂し、スキー滑降を成功させた冒険家にも生活習慣病は、そして身体の衰えは、平等に襲ってきた。
「余命3年。このままでは、いつポックリ逝ってもおかしくない」
血圧190、糖尿病、腎臓病、狭心症という検査結果とともに、知人の医師が突き付けた言葉に三浦は開き直る。
「どうせ死ぬなら、もう一度、死ぬ気でトレーニングして、目標だったエベレストを目指してやろう」
父の存在も大きかった。雄一郎と同様にプロスキーヤーだった父の三浦敬三は、2003年にモンブラン山系のヴァレブランシュ氷河からのスキー滑降を目指していた。そしてなんと99歳で目標を成し遂げる。そんな父の姿に思った。オヤジは100歳近くになっても目標を目指しているのに、60代のオレはなにをやっているんだ、と。
エベレストに登るには"攻め”の姿勢が必要
"健康に戻る”ために三浦は1から、いや、マイナスから身体を鍛え直すことにした。
三浦が提唱する"攻める健康法”はメディアを通して広く知られている。散歩するときも、旅行するときも、重りを入れたリュックサックを背負って、両足首に重りをつける。1年目に片足に1kgずつ、翌年は3kgずつと徐々に負荷を高めた。最終的には片足に10kg、背中に30kgの計50kgの負荷をかけた。確かに誰にでもできる"模範的な健康法”ではない。