サカナクションが語る「未来を切り開く、音の可能性」

サカナクションの山口一郎(左)とispaceの袴田武史(右)。2016年8月に行われた「au×HAKUTO MOON CHALLENGE」フライトモデルのデザイン発表会にて。

11月某日、都内でフォーブス ジャパン2月号の表紙撮影が行われた。

そこに集まったのは、人類初の“月面レース”に参戦するチーム「HAKUTO」の袴田武史代表、それを支援するKDDIの田中孝司社長、そして、人気バンド、サカナクションの山口一郎の3人。その撮影の合間に、山口は「実は、今日、僕は会社を設立したんです」と口にして周囲にした者たちを驚かせた。彼が新会社、NFで目指すものとはー。


「企業とカルチャーを結び付けるハブのような存在になりたい」と起業を思い立ったサカナクションの山口一郎。
 
彼は「音の可能性」について次のように話す。

「音って、においと一緒なんです。例えば、何もない真っ白な空間にジャズが流れていたら、その空間はジャズで支配されて、その気分になりますよね。あるいは、その空間にラベンダーのにおいが漂っていたら、それはラベンダーの雰囲気に浸れます。音は、気分なんです。だから僕は、空間デザインだと思うし、宇宙開発と結びつくところはたくさんあると考えるのです。
 
もちろん危険を知らせるセンサーとしての役割としても可能性はまだまだあるし、そこは誰もまだ踏み込んでいない分野です。僕らはエンターテインメント側にいる人間なので、そういった分野とは遠いところにいるはずなんです。

でも、僕らのような外に音楽を発信しているようなミュージシャンがそういったプロジェクトに加担し、音で空間をデザインしたり、企業と音を結びつけることができたら、これまでにない新しいシステムをつくれる気がするんです。やっぱりロックバンドがもつ夢をアップデートしていきたい。そう思っています」
 
山口は産業とカルチャーを融合させる新会社「NF」を設立したが、宇宙以外にもやりたいことをすでに頭に描いている。

「やってみたいのは、車の音をつくることです。電気自動車が象徴的ですが、車のエンジン音はどんどん消えてなくなっています。でも、そもそも車の音って街の音じゃないですか。その音をつくることになれば、それは日本の音になる気がするんです。空港を降りて、東京の駅に降り立った瞬間、『あ、日本の音が鳴っている』と思われるような、街のにおいのような音です」

経済はカルチャーをもっと理解していくべきだと山口は言う。

「商品やサービスのものさしが“安い、うまい、早い”は瞬間的な価値であって、何年も先に影響を与えるものではありませんよね。一方、カルチャーに即効性はありません。しかし、日本を代表する企業であればあるほどカルチャーに理解を示し、日本のイメージというものを構築してほしいと思うんです」
 
2016年8月、山口はKDDIの田中、ispaceの袴田とともに「au×HAKUTO MOON CHALLENGE」フライトモデルのデザイン発表会に立った。壇上には、3人のほかに、パートナー企業であるIHI、Zoff、JAL、リクルートテクノロジーズ、スズキ、セメダインも参加。金銭面から技術協力まで支援の形はさまざまだ。
 
サカナクションはこの発表会後、応援曲「moon」を制作した。

「既存のタイアップという形ではなく、プロジェクトの音楽として支えていきたい」そう話す山口は最後にこう語るのだった。「やっているジャンルは違うけれど、志は一緒。僕は戦友と思っています」

文=河鐘基、藤吉雅治

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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