FIを「NTTの技術」のショーケースに/庄司哲也社長

NTTコミュニケーションズ 庄司哲也社長(Photo by Mike Harrington)

7月、F1のマクラーレン・ホンダとNTTコミュニケーションズはテクノロジー・パートナーシップ契約を締結した。左の写真は、ロンドン郊外のマクラーレン本社で社長の庄司哲也を撮影したものだ。ーーと言っても、F1に興味がない人にとっては気にも留まらぬニュースかもしれない。しかし、ニュースの核心は、むしろサーキットの外にある。

「私どものグローバル事業の売上高は順調に拡大しているのですが」と、庄司は言う。国際通信やインターネット接続、そして急拡大するクラウド市場で業績は伸びている。しかし、壁があった。欧米の市場には、アマゾンやマイクロソフトをはじめとした強力なライバルが存在し、知名度で劣るのだ。

多くの日本企業が「技術で勝って、ビジネスで先を越される」と言われるが、欧米で壁を打ち破るにはどうしたらよいか?

その答えのひとつが名門マクラーレンとのパートナーシップだ。F1は世界21カ所を転戦する。まさに庄司たちがプレゼンスを向上したい地域と重なるうえ、F1は全世界に中継される。さらに、近年、ハイテク戦の様相を帯びるスポーツの中でも、F1には世界最先端のICT技術が集結する。庄司が言う。

「サーキットを走る車の走行中の膨大なデータは、リアルタイムでロンドン郊外にあるマクラーレン・テクノロジー・センターや世界中の分析拠点に送られます。そこでデータが分析され、『ダウンフォースを上げる必要があるため、ウィングの角度を変えなさい』とか『あと何周でタイヤを交換』といった判断がなされます。このとき重要になるのが、通信の信頼性と到達速度なのです」

膨大なデータ量、一瞬の遅延も許されないスピード、そしてセキュリティ。「F1をNTTの技術のショーケースとする」。それが庄司が導き出した答えだった。

東京・日比谷の本社に、マクラーレン・グループのCEO、ロン・デニスが訪ねてきたときのこと。かつてアラン・プロストやアイルトン・セナとともにマクラーレンの黄金期を築いた、厳格な完璧主義者を前に、庄司は応接室の壁にある畳3畳ほどの世界地図を指さした。

「あれを見てください」。地図上の海にはおびただしい線が張り巡らされている。

「あの線は大容量データを高速で運ぶ海底ケーブルです。この海底ケーブルで構成された我々のネットワーク基盤は、世界196の国と地域をカバーします。今後、レースの開催場がどこになっても、我々は確実に、また最速でデータを運びます」
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編集 = Forbes JAPAN 編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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