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2016.11.27

コニャックの王「ルイ13世」x西陣織の老舗「細尾」 響き合うクラフトマンシップ

バティスト・ロワゾーと細尾真孝

コニャックの王「ルイ13世」の5代目セラーマスター、バティスト・ロワゾーと京都・西陣織の老舗「細尾」の12代目、細尾真孝。伝統を受け継ぐ職務にあるふたりが共鳴した、普遍的価値とは―。


細尾真孝(以下、細尾):本日は私たちのショールームまでお越しいただき、ありがとうございます。この西陣という地域では、1,200年前より天皇や貴族、将軍家へ献上されるお誂え物として、先染めの織物が育まれてきました。弊社は1688年に大寺院御用達の織屋として創業し、ここを中心に約7km圏内で家業を営む職人たちと約20の工程を分担して西陣織を生産しています。

バティスト・ロワゾー(以下、ロワゾー):このような日本の伝統を感じられる場所で、同じようにフランスのクラフトマンシップを表現している「ルイ13世」をご紹介できることをうれしく思います。西陣織と同じように、コニャックも、コニャック地方でつくられたものしか、その名を冠することはできません。

その中でも最高級に位置するのが「ルイ13世」です。コニャック地方の6つの区画の中で最上級の畑とされるグランド・シャンパーニュで収穫されたブドウをさらに厳選した、大変希少な原料を使っています。

セラーマスターとして私がブレンドする「ルイ13世」の1,200種類ものオー・ド・ヴィー(原酒)は、私ひとりでつくり上げたのではなく、先代、先々代のセラーマスターが仕込んで、100年という時間をかけて熟成させたものです。ですから、「時」の概念と職人技を伝承していくことで、現在グラスに注がれている「ルイ13世」があると言えます。

細尾:まさにフランスの至宝ですね。西陣織にも1,200年間の積み重ねてきた伝統や技術があります。そのため、私たちの家業は預かりものという意識が強く、いかにこの伝統を継続させていくかということを第一に考えています。

ロワゾー:私も同感です。レミーマルタン社のゼネラルマネージャーがよくこういうことを言うのです。「ひとりで行くと非常に早く行けるけれど、みんなで行くとより遠くまで行ける」。セラーマスターからセラーマスターへと引き継いできたチームワークが、より遠くへ行く力となって伝統をつくり上げるのです。

そして同時に謙虚に自分が引き受けていることは、そのための通過点にすぎないということを踏まえながら、全身全霊で取り組みたいと思っています。

細尾:時間を縦軸とすると、横軸、つまり先ほど申し上げた約20の工程の職人たちとのつながりもあります。さらには、地域の生活文化も重要です。

例えば、お茶文化にお茶筒や陶器、お能の衣装に着物といったように、京都の場合には多彩な文化が密接にかかわるなかで、クラフトが生まれてきました。私たちが自分たちのクラフトをきちんと伝えるためには、まずはその背景にある文化を知っていただくことが大切です。京都に来て体験していただくことで、そのモノの価値を感じてもらえたらうれしいですね。

ロワゾー:「ルイ13世」の豊潤な香りにも、受け継がれてきた伝統、そして同時にコニャック地方の自然の恵みや人々の情熱が込められています。私はコニャック地方で生まれ育ったので、そのことがとてもよくわかっています。

もちろん、それだけですベて解決するわけではなく、自分がどれだけ情熱を注いでいるかも栽培者に見せていかなければなりません。そして、脈々と続けてきた蒸留者のノウハウに深いリスペクトを示さなければ、いまのような付き合いはできなかったと思います。

細尾:そうですね。自分たちだけでなく、産業自体、私たちで言えば、西陣織に関係するすべての人が生き生きと働けるような環境もつくっていかなければなりません。そのためには新たな挑戦が必要だと考え、7年前から西陣織の技術と素材を使ったテキスタイルを、海外のラグジュアリーマーケットへ向けて展開しています。

素材として海外に出すために、約1年をかけて32cm幅の帯の織機を改良して、150cmの幅の生地をつくれるようにしました。いまでは、主にインテリア、ファッション、アートの分野に生地を卸しています。

ロワゾー:クリエイターの方たちは、インスピレーションを得て、いろいろな使い方をされるでしょうね。

細尾:西陣織だけではなく、京都の他の伝統工芸の後継者も、同じ意識を持って取り組んでいます。「GO ON」は、私と同じ、主に30代の若手が手を組んで、世界のさまざまな業種と京都の伝統工芸をコラボレートさせながら、100年先へつなげていくことを目的として結成しました。異業種のクラフトマンとの交流はたいへん刺激的なものですね。そして、もちろん今日も然りです。新たな力を頂くたいへん貴重な出会いとなりました。

ロワゾー:私も、お互いにしている仕事が響き合うぐらいに近い関係性があり、感銘を受けました。細尾さんも、私も、自分のルーツが、いま地に足をつけているそれぞれの場所にあり、大きな遺産を預かる責務があることをしっかりと認識し、未来へつなげていこうと精進しています。今日は、改めていまの自分の立ち位置を確認するよい機会となりました。


バティスト・ロワゾー◎1980年、フランス・コニャック地方生まれ。農業工学や醸造学の教育を受けた後、2005年、フランス国立コニャック生産者協会に参画。07年、レミーマルタン社にプロジェクト顧問技師として入社。14年から現職。

細尾真孝(ほそお・まさたか)◎1978年、京都生まれ。大学卒業後、大手ジュエリーメーカーに入社。フィレンツェでの留学を経て、2008年、株式会社細尾に入社。09年より新規事業を担当。伝統工芸を担う後継者によるプロジェクト「GO ON」の一員として活躍中。

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LOUIS XIII ルイ13世
コニャック生産地区の中で最も高品質なブドウを生み出す希少な地区、グランド・シャンパーニュ。その中でも特に素晴らしいブドウを厳選し、100年にも及ぶ長い熟成を経た1,200種類ものオー・ド・ヴィーをブレンドした究極のコニャック。1874年誕生以来、最高級のシンボルとして人々を魅了し続け、豪華客船から超音速旅客機まで、さまざまな場所で供され、歴史を彩ってきた。「ルイ13世」を提供することは最高のおもてなしであり、時間を味わうという最高の贅沢なのである。希望小売価格 280,000円(税別)

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HOUSE of HOSOO
落ち着いた室内に細尾の西陣織を生かしたプロダクトや家具、「GO ON」の製品が揃うショップ兼ショールーム。
住所:京都府京都市上京区毘沙門町(黒門通)752 TEL:075-441-5189

text by Akio Takashiro

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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