日本のフィンテック投資額「対米比0.5%」が暗示するもの

日本経済産業省「産業・金融IT融合(FinTech)に関する参考データ集」より作成


ローン審査も、個人の収入、資産のみならず、過去のローンやクレジットカードの返済記録など、さらにネットでの本人や会社の評判が蓄積されていれば、審査の大部分は自動化できるはずだ。さらに、すでに起きつつあることだが、「クラウドファンディング」も盛んになるだろう。出資を募る個人あるいは中小企業が、アイデアをネット上で公開することで、多くの人から、小口の出資あるいはローンを受けるという仕組みである。

安い預金金利で資金を集めて、高い金利でローンを出すという金融仲介業に革新がおきる。貯蓄超過の個人から、投資する個人、企業を結びつけることになれば銀行の支店数は激減するだろう。日本の銀行の支店には人があふれているが、いま支店を訪れている人たちの大半が、インターネット・バンキングやモバイル(スマホ)・バンキングですむのではないか。支店に来ないように顧客にインセンティブを与えることで、長期的にはコストを大きく削減できる。

このように考えると、次のような変化は起きるような気がする。(A)銀行の支店数は激減する。(B)保険外交員という職種はなくなる。(C)フィナンシャル・アドバイザーはロボットで置き換わる。(D)融資審査はほぼ自動的に、短時間で行われるようになる。

金融サービスの未来像

これらのフィンテックの行き着く先はどのような世界だろうか─。大胆な予測を許してもらえれば、個人のさまざまな情報に応じて、さまざまな金融サービスが、「個人向けにリスクを細分化したサービスになる」ということだ。

たとえば、自動車保険の保険料は、かつて画一的だった。現在では、年齢はもちろん、無事故期間(ゴールド免許)、走行距離などで、事故リスクの小さな人には安価な保険料を提供するようになっている。これが、いま提案されているのは、車載カメラを搭載してもらい、運転のくせを分析、その運転者のリスクをより正確に把握することで、運転マナーのよい運転者には安価な保険料を提供できるようになる姿だ。

これと同じようなことが、銀行ローンやさまざまな保険商品にも当てはまるようになる。顧客にとっては、優良顧客に分類されることが非常に重要になってくる。

IT「技術」は決して日本が劣っている分野ではない。しかし、日本の問題は、技術を生かす商品(サービス)開発、それを世界に売り込む国際的戦略・交渉力・経営力がなかったことだ。1999年に始まった「iモード」は、当時としては、世界最先端の通信サービスであった。おサイフケータイも然りだ。しかしその後の展開は、日本のサービスを世界展開できず、いまや似たようなサービスを輸入するようになってしまった。フィンテックではもう一度日本企業に巻き返してもらいたい。

伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年〜14年東京大学教授。近著に『日本財政「最後の選択」』(日本経済新聞出版社刊)。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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