乱戦のアメリカ、遅れる日本 「バックオフィス争奪戦」最新事情

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アメリカで今、HRテックのスタートアップが続々と誕生。その数は400社を超える。テクノロジーはバックオフィスを、働き方をどう変えるのかー(前編)。

ある日、人間が開発したロボットが、人類に牙をむくー漫画や映画でたびたび見るテーマだ。「人工知能(AI)」は2030年に人間の能力を超えると言われ、「10年後に消える職業」を予測した記事がアクセス数を集める。いまや、AI活用を謳うサービスは、巷に溢れている。

では、AIとは何なのか? 専門家からは共通の答えが返ってきた。

「発想や技術自体は目新しいものではありません」

HRテックの“顔”となっている慶應義塾大学ビジネススクールの岩本隆特任教授は、日本で「AI」とされているものの大半は2つの技術の進化に支えられたものだと言う。

「一つはコンピュータの性能が飛躍的に向上したことで、大量のデータを蓄積し、それを短時間で分析できるようになったこと。もう一つは、画像認識技術の進化です」

ここ数年でにわかに注目を集め始めたAIだが、その大半は、進化した技術の組み合わせで成り立っているということのようだ。

一方で、これまでITの活用が、遅々として進まなかったのが、企業のバックオフィス業務だ。「採用や人事査定」といった業務は企業活動の根幹であるにもかかわらず、人事にかかわるデータは個別的かつ膨大であることから、概念的にはシステム化できると考えられていたが、その処理に長時間を要し、実際には使い物にならなかった。

しかし、高性能化したコンピュータと画像認識技術、それを最大限に活用したAIシステムが、ついに企業のバックオフィス業務を、ひいては私たちの働き方を変えようとしている。

AIが考えてくれる時代が到来!?

上司に届くメールを秘書が確認し、仕分けをして対応するーこんな業務を代替してくれるシステムを開発中なのが、IBMだ。同社のAI「ワトソン」が、送信者、参照者、緊急度や対応の要求といった項目を認識。メールの内容から必要なアクションを判別する。

使えば使うほど“学習”し、ユーザーがやり取りするメールの傾向を覚え、より正確なアクションの指示を可能にする。日本IBMのエグゼクティブIT スペシャリスト、ソーシャルウェア エバンジェリストの行木陽子は言う。

「アメリカでは、AIが人の仕事を奪うのではないかという印象が非常に強い。でも、人々の生産性を高め、イノベーティブに働けるように支援するのがAIの役割です。今、ミレニアル世代が企業の主力になってきています。この世代は効率的に働き、プライベートを大事にする価値観を持っている。

それだけに、彼ら自身が仕事を効率化できるようなツールを見つけ出して、どんどん使う傾向があります。どんなツールが若い人たちの生産性を上げることにつながるのかを理解し、企業としてセキュリティを保った状態で活用を進める必要があるでしょう」

こうした価値観を持つ人材を、企業が活かすためには、リモートワークが可能な環境を整え、グローバルの拠点とのコミュニケーションや、在宅勤務など、あらゆる働き方で成果が出しやすい環境を整える必要があるのだ。

IBMは、フェイスブックやインスタグラムといったSNSに使われている技術の企業への応用を進めているが、これもこうしたニーズに応えるための一環だ。SNSの仕組みを使って、オンラインでオープンな議論ができる場を設けたり、企業特有の情報をワトソンが学習して集めたり、さまざまな技術を組み合わせることにより、時間と場所を超えて、社員間のコミュニケーションの活性化を図る仕組みだ。
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文=大木戸 歩

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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