ヒッグス粒子研究者がつくった避妊アプリ 10万人の有料会員を獲得

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女性向けの避妊方法の選択肢は広がっているが、体に負担がかかるものも増えている。しかし、テクノロジーの力を借りれば、昔からある生理周期を利用したリズム法も最新の避妊方法に早変わりだ。

スウェーデンの素粒子物理学者エリナ・ベルグルンドが開発した避妊アプリ「Natural Cycles」を使えば、望まない妊娠を95%以上の確率で防止することができるという。ヒッグス粒子の発見に貢献したベルグルンドがワイアード英国版に語ったところによると、避妊アプリプロジェクトの構想が持ち上がったのは、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での最初の実験が終了した2012年だ。

「この実験を上回るものはないと考え、全く違う分野に足を踏み入れようと考えたのです」とベルグルンドはワイアードに語った。彼女はCERN(欧州原子核研究機構)に所属しているころから避妊ピルをやめ、体に優しい避妊方法を開発することにした。

アプリに利用されているアルゴリズムはベルグルンドがCERN在籍中に開発した統計的方法に基づいているという。体温から排卵を予測し、妊娠しやすい日は赤、妊娠しにくい日は緑のマークで表示する。

このアプリではすでに2回の臨床試験を行っており、避妊方法として期待できる結果が出ている。2回目の臨床試験は20~35歳の女性4,000人を対象に行われ、1年以内に起きた予定外の妊娠は143件で、そのうち10件が緑と表示された日だった。これはアプリによって99.5%の確率で避妊できていることになり、ピルと同等の効果があると言える。

「私たちが行った試験は実際の生活の中で行われたことに注目すべきです」とベルグルンドは説明する。「つまりNatural Cyclesはできる限り現実に近い状況でテストされたということです。ピルやコンドームを使用するようにとの念押しが行われるような比較臨床試験では、実生活で行った場合と比べて良い結果が出ます」

6億円の資金調達に成功

Natural Cyclesに月額6.99ポンド(約890円)の利用料を支払っているユーザーは現在10万人であり、6月に行われたシリーズA資金調達では600万ドル(約6億2,300万円)の調達に成功するなど、前途有望なアプリと言える。避妊アプリはほかにもたくさんあるが、イギリスで医療機器として認められているのはNatural Cyclesのみだ。

だが単なる周期をモニターするためのものではなく、避妊具として認められたいとベルグルンドはワイアードの取材に語っている。「私たちのアプリは副作用のあるピルにとって代わる自然な避妊方法です」

一方、Natural Cyclesの最近の試験報告の筆頭著者であるKristina Gemzell Danielssonは、このアプリは他の避妊方法にとって代わることものではないと主張する。

「このアプリの効果はピルと同等とは言えますが、子宮内避妊器具よりも圧倒的に低いのです」と彼女は述べている。

ベルグルンドはNatural Cyclesを避妊具と認めてもらうべく、データの解析やセキュリティの強化のためにCERNの同僚を新たに雇用した。

編集=上田裕資

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