「日本一短命の町」に企業が続々と参入する理由

イラストレーション=東海林巨樹

すこーんと抜ける青い空、緑の苗が広がる田んぼ、大型店舗のイオンと新興住宅街も見える。一見、どこにでもありそうな地方都市、青森県弘前市郊外。この地にある弘前大学を拠点に、いま大手企業が続々と集まっていることはあまり知られていない。

企業が関心を寄せたきっかけは、ただひとつ。青森県の不名誉な姿である。以下の表のように、青森県は男女とも長く「日本一の短命県」であり続けている。短命という嬉しくない話が、実は宝の山に変わる可能性が高いのだ。まず、なぜ早死になのか、その実態を紹介しよう。
 

青森県の平均寿命は、男性77.28歳、女性85.34歳。狭い国土にありながら、長寿日本一の長野県とは実に3年もの開きがある(2010年、厚生労働省調べ)。
 
しかも、この「平均寿命」からは本当の深刻さは見えない。数字上は青森県民の大半が77歳まで生きているように見えるが、青森では40代、50代という働き盛り世代も数多く命を落としているのだ。都道府県別に10歳ごとの人口10万人当たり死亡率ランキング(平成22年=男性)によると、青森県は「40〜49歳」から始まり、最も高齢の「80歳以上」に至るまで、すべての年代で死亡率ワースト1位。

特に働き盛りの世代の死亡率が高く、「40〜49歳」のグループでは、長野県の10万人当たりの死亡率が171なのに対して青森は323。一家の大黒柱として成長期の子どもを育てている世代が、長野県の倍近く亡くなっている。残された家族にとって、辛い実情があるのだ。

「健康に対する意識が低いのです」

ばっさりと断じるのは、弘前大学大学院の医学研究科長、中路重之教授である。長崎県出身の中路は、40年以上前に弘前に来て以来、青森県民とともに暮らしてきた。短命県に甘んじている現状に誰よりも強い危機感を持ち、「小学生のうちから変えないとダメだ」と言う。中路が中心となって立ち上がり、どう動いたかを紹介する前に、県民の生活習慣を数字で見てみたい。

都道府県別で比較すると、まず、「スポーツをする人の割合」は青森県が全国ワースト1位。「歩数」も男性46位で女性41位である。喫煙本数と肺がん死亡率の相関関係が明らかになっている「喫煙率」は、男性がワースト1位、女性がワースト2位(2010年調査)。

「多量飲酒者率」は男性がワースト1位で女性はワースト8位。ちなみに、大酒飲みばかりではなく、「炭酸飲料消費量」でも青森県は1位である。特産品であるリンゴ果汁を発酵させてサイダーにして飲んでいた歴史があるため、サイダー消費量がトップ。酒だけでなく甘い飲料を飲む習慣があるのだ。

他にも、「食塩摂取量」は男性ワースト2位で女性は同5位、そして「肥満者数」は男性ワースト4位、女性は同2位…。

もちろん、避けられない環境因子も大きい。県の日本海側を占める津軽地方は日本有数の豪雪地帯。冬は外出もままならず、運動不足から肥満になりやすい。そのため、津軽は古くから肥満児が多く、相撲部屋からスカウトが訪ねてくる歴史がある。戦後の幕内力士出身県を人口10万人あたりの比較で見ると、こちらは青森県が堂々の首位。
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文=長田昭二 イラストレーション=東海林巨樹

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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